しかし、農業が基幹産業である時代が終わり、製造業がそれに代わると、教育を農業の比喩で語る習慣は失われた。学校は農園から工場に変わった。

 最近驚かされたのは、子どもたちに「ポートフォリオ」を持たせるという教育法が採用されたと聞いたことである。子どもたちはなんと今度は「金融商品」のようなものに見立てられているのである。人々はそれと知らずに支配的な産業をモデルに教育を語る。いずれ人工知能や仮想通貨やバイオテクノロジーの用語で得々と教育を語る人が出てくるのだろう。

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

AERA 2022年4月11日号

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