侵攻を続けるロシア軍はウクライナ側の強い抵抗にあって、戦況は膠着(こうちゃく)している。すでにプーチン大統領は核戦力を念頭に特別警戒態勢を取るよう命じるなど、核兵器の先制使用さえためらわない姿勢だ。
国連のグテーレス事務総長は「かつては考えられなかった核戦争が、いまや起こり得る状況だ」と危機感をあらわにするが、ロシアが本当に核兵器を使う可能性はあるか。
拓殖大学の佐藤丙午教授(安全保障論)はこう懸念を示す。
「ロシアが核を使うとすれば、プーチン氏が言うように国家の浮沈がかかる時に防衛的に使用するか、あるいは焦土作戦でしょう。ウクライナは小麦など世界有数の穀物輸出国です。ウクライナの国力の源泉である穀倉地帯で、たとえ限定的であっても核爆発を起こせば、その土地は農業目的では利用できなくなります。経済的に復興できないまでに叩(たた)きのめせば、停戦後の将来的な再侵略を考えた時も好都合というわけです」
1986年のチェルノブイリ原発事故によってウクライナ・ベラルーシ国境は約3700平方キロメートルにわたっていまも立ち入り禁止区域になっているが、ウクライナの広大な農地がそうした状況に陥る恐れがあるのだ。ロシアが限定的に核を使っても、米国は自ら核のエスカレーションを起こすわけにはいかないから、参戦するなど戦略的な対抗策が取れないことも見越しているという。
核使用の可能性が現実味を帯びるというショッキングな状況の中、日本で飛び出したのが「核シェアリング(核共有)」論だ。安倍晋三元首相が2月に出演したテレビ番組で「議論していくことをタブー視してはならない」と発言したことで話題となり、毎日新聞と社会調査研究センターの世論調査では「議論すべきだ」が57%に上り、「議論すべきではない」の32%を上回った。
岸田文雄首相は国会答弁で「政府として議論することは考えていない」と明確に否定したが、3月3日には日本維新の会が核共有の議論を求める提言を政府に提出。与党内にも議論を求める声は根強い。自民党の下村博文前政調会長はこう語る。