「日本は唯一の被爆国として核保有が許される状況ではなく、不本意な部分はありながらも米国の核の傘で守られているという現実がある。ロシアが核使用も辞さないという発言をして世界の核に対する考え方が大いに変わってきている中、日米同盟を強化していく中で、核共有を議論することは当然と思います」
にわかに注目を浴びることになった核共有とは、核保有国と非保有国による核の共有政策だ。現在、NATO(北大西洋条約機構)に加盟するドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5カ国に、米国が保有する「戦術核」が計約150発配備されている。射程が5500キロ以上で敵の本国を直接攻撃できるICBM(大陸間弾道ミサイル)など「戦略核」と異なり、戦術核は射程が500キロ以下で威力も比較的小さく、戦場単位での使用を想定している。
5カ国に配備されているのは60年代に開発されたB61核爆弾。使用する際には、爆撃機や核攻撃能力を持った戦闘機に搭載し、空中から投下する。核爆弾は平時には米軍の管理下に置かれ、戦時での使用も米大統領が最終決定権を持つ。共有とは言いながら、米国の絶対権限の下に置かれているわけだ。
◆NATOと違う日本の地理条件
言うまでもなく、核共有が実現すれば、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則を放棄することにもなる。安倍氏の発言は急ピッチで軍事力を増強する中国や、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮などを意識してのものだろうが、はたしてNATO型の核共有を日本に応用するメリットはあるのか。
元内閣官房副長官補の柳澤協二氏が指摘する。
「日本が領土内に核を置いて対峙すれば中国にとって大きな脅威になり、かえって中国の先制攻撃を誘発する可能性が高まります。敵基地攻撃能力や核による報復力を持てば、優先的な攻撃目標になることは間違いない。核大国が近くにある日本の安全を保障するものにはなりません。世界中が核戦争になることを心配しているいまこそ、唯一の被爆国である日本は核の使用制限やミサイル軍縮に向けての国際世論を牽引すべきです。それなのに、逆のことをやろうとしているのだから嘆かわしい限りです」