現在でも、日本には米国のICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など長距離核による拡大抑止(核の傘)が効いているとされている。このうえ戦術核を持ち込めば、かえってリスクを招き入れることになる。
地理的な条件を考えても、日本とNATO諸国とでは想定される有事が異なる。柳澤氏が続ける。
「NATOの核共有が始まった当時は旧ソ連の圧倒的な軍事力の優位があり、陸続きで攻めてくるソ連軍の戦車を通常兵器だけでは押しとどめられない状況だった。だから、戦場に限定して戦術核を必要としたのです。日本は海に囲まれていますから、ミサイル戦争が想定されます。そうすると、中国のミサイル施設を叩くことになるから、最初から本土攻撃になる。その違いを理解しないと、核共有は軍事バランスを安定させるどころか、無限の軍拡競争に導く可能性のほうが高いのです」
マイナス面の認識は、与党内でも早々に広まったようだ。3月16日に行われた自民党の安全保障調査会でも議論がなされたが、同会による国政への提言に核共有や非核三原則の見直しは盛り込まれないことになった。
陸上自衛隊出身で自民党外交部会長の佐藤正久参院議員は「NATO式の核共有は日本から見ると非現実的で、なじまない」と言う。一方で、核に関する現実から目をそらすべきではないとして、次のようにも語った。
「日本の核抑止を米国の戦略核に頼っている現状も、ある意味では核共有と言えます。今は、米国の戦略核を日本の防衛のためにどう使うかの意思決定の部分は両国の審議官級で協議して決めることになっていますが、せめて閣僚級にするべき。米国まかせになってしまっている核抑止に、政治レベルの関与を強めていくべきです。日本の実態は非核三原則に『考えもせず、議論もせず』を加えた“非核五原則”。聖域を設けず議論していくことは必要だと思います」
(本誌・亀井洋志、村上新太郎)
※週刊朝日 2022年4月15日号