中距離ミサイルを巡っては、1970~80年代にソ連が欧州全域を射程に収める中距離ミサイル「SS20」を開発すると、米国は対抗して準中距離ミサイル「パーシングII」を当時の西独、イタリアなどに配備した。際限のない軍拡を避けるため、87年に米ソ間でINF全廃条約を締結。地上発射型の中距離ミサイルを全廃した経緯があった。前田氏はこう提言する。

「対象外のB61は置き土産のように残ったのですが、条約によって当面の危機は去りました。これを手本として、INF条約の東アジア版を交わすのです。そのために、日本はイニシアチブを発揮するべきです」

 米ロ間は対立しながらも、ICBMなどの削減を定めた新戦略兵器削減条約(新START)が続けられている。佐藤氏もこう同調する。

「INF条約を東アジアに応用すれば中国の中距離ミサイルを無力化できる。中国は軍縮枠組みにほとんど参加しておらず、多国間の交渉に巻き込むことは極めて重要です」

 岸田首相は4月下旬にバイデン氏を国賓として迎える予定。被爆地の長崎を一緒に訪問する計画があるという。ある外務省元幹部はこう語った。

「日本は現実主義と理想主義の二つを政策に織り込んできた。国民の安全を守るには日米同盟、核の傘が必要だが、核なき世界を目指す理想を失ってはいけないと多くの国民が思っている。どちらかを選択できるものでもないが、際限ない軍拡の流れには歯止めをかけないといけない。唯一の被爆国として、国際社会に道義で訴えていくべきだ」

(本誌・亀井洋志、村上新太郎)

週刊朝日  2022年4月15日号

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