核の使用をちらつかせるロシアのプーチン大統領の言動により、「核戦争」の脅威が一気に現実味を帯びてきた。そんな中で突如持ち上がった「核共有」論。しかし、専門家に聞くと非現実的との答えが返ってきた。
では、日本を取り巻く「核」の状況は実際どうなっているのか。
3月29日、米国防総省はバイデン政権になって初めて「核戦略見直し(NPR)」の概要を公表した。バイデン大統領は核攻撃の抑止と報復が核兵器使用の「唯一の目的」と宣言していたが、NPRには盛り込まれず、通常兵器や生物・化学兵器による攻撃に対しても用いる余地を残した。また、敵が核兵器を使わない限り、米国も核兵器を使わないという「先制不使用」も記載されなかった。
持論の核軍縮路線を後退させたのは、ロシアによるウクライナ侵攻後の国際情勢も考慮してのことだろう。陸上自衛隊出身で自民党外交部会長の佐藤正久参院議員はこう語る。
「米国がこれまでの路線を維持してくれたことを歓迎しています。限定的にしか核を使えないと言ってしまうよりは、あいまいにしておいたほうが抑止力としてプラスになる。中国や北朝鮮は『うっ』と思ったはずです」
一方で、中国は中距離ミサイル約2千基を保有するといわれ、射程は1500~4千キロ。日本やグアムを射程に収める。無論、核弾頭をいつでも積むことができる。
昨年11月、米国防総省は年次報告書で中国が2030年までに核弾頭1千発を保有する可能性があるとの見方を示した。
中国の急速な軍拡により、日本も対応を迫られている。19年には、トランプ政権下の米国が離脱を通告して米ロ間のINF(中距離核戦力)全廃条約が失効。当時のエスパー国防長官は、日本を含む東アジアに地上発射型の中距離ミサイルを配備したい意向を示した。
軍事評論家の前田哲男氏が解説する。
「米海軍が艦船に搭載する洋上発射型巡航ミサイルのトマホークは核弾頭搭載が可能で、いつでも核戦力になります。しかし、中国の中距離ミサイルの脅威を睨(にら)んだ時、抑止のレベルがどうしても見劣ってしまうという危機感が制服組にはある。米国としては、日本を含むアジアに中距離核を配置したいという欲求に駆られている。核が付くか付かないかは、中国に対する非常に大きなメッセージになる。水面下では日本側と交渉を進めていると考えられます」