だが、日本は非核三原則により核共有はもとより中距離核ミサイルの持ち込みも是認できない。
「日本としては非常に難問ですから、核付きではない中距離ミサイルを置くことを落としどころとして協議が進んでいると考えられます。安倍発言(=安倍晋三元首相が2月に出演したテレビ番組で「議論していくことをタブー視してはならない」と発言)はその点を踏まえていると思われます。いざ有事となれば、中距離核になる能力は潜在的に持っている。今後も、『持ち込ませず』を破棄し、非核二原則にしてしまおうとする動きは出てくるでしょう」(前田氏)
自民党関係者は、「有事の際には核搭載の米原潜の日本入港を認めることになるだろう」とも話す。民主党政権下の10年には、岡田克也外相(当時)が、緊急時の核持ち込みについて「時の政権が、政権の命運をかけて決断をする」と答弁している。非核三原則の土台は、すでに揺らいでいる。
日本に中距離ミサイルが配備されるとすれば、日本列島から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線になるだろう。南西諸島近海で米艦船が沈められるなど偶発的な衝突が起きた場合、巡航ミサイルや中距離ミサイルで中国本土のミサイル基地を攻撃することになるのか。元内閣官房副長官補の柳澤協二氏はこう語る。
「米中ともに核の撃ち合いは絶対避けたいから、米国本土は対象外です。中国は日本や在日米軍を攻撃する可能性が高く、南西諸島は確実に戦場になってしまいます。エスカレーションするほど、日本に対する核攻撃のリスクが高まる。そこが中距離戦力のバランスの難しいところで、収まりどころが見えません」
◆現実踏まえつつ理想捨てぬ道は
一方、佐藤丙午氏は地上発射型中距離ミサイルの弱点を指摘する。
「米政府内で日本に中距離ミサイルを置きたいと主張する人たちがいるのは確かです。しかし、固定式の地上発射型ミサイルは相手から発見されやすいので脆弱(ぜいじゃく)です。拠点を移動できる艦船や航空機から発射できる巡航ミサイルのほうが有効だと思います。日本は最新鋭のステルス戦闘機F35を米国から大量に購入していますが、F35のライトニングIIという機体は核・通常兵器両方のミサイルが搭載できるのです」