フィギュアスケートの世界選手権が3月下旬、フランス・モンペリエで開かれた。日本勢が男女シングルで金メダルを独占、ペアが初の銀メダルに輝くなど、歴史に残る大会となった。AERA 2022年4月11日号の記事を紹介する。
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自身6度目の世界選手権で、ようやく頂点をつかんだ。しかも、ショートプログラム(SP)、フリーともに自己ベストを更新し、総合得点は世界歴代3位。なのに、宇野昌磨(24)は意外なほど淡々としていた。
「優勝は、僕のゴールではない。ゴールはもっと成長した先にあるものだと思っています」
それでも、フランスで優勝した事実には特別な思いがあった。
「(この国は)僕の分岐点。この舞台で素晴らしい成績を取れたことに感謝しかない」
■分岐点から2年4カ月
24歳の感情を理解するには、少し時間をさかのぼらなければならない。
2018年平昌五輪で銀メダルに輝いた後、宇野はもがいた。「とらわれたくない」と言っていた結果を意識するようになり、スケートが苦しいものになった。
「終わりに向かってスケートをしている印象だった」
再生のきっかけをくれたのが19年秋、グランプリ(GP)シリーズのフランス杯だ。計5度転倒し、GPシリーズ過去最低となる総合8位。涙を流した。
SPを終えた時、「もうすぐ引退かな」と覚悟したという。だが、続くフリーでもミスが相次いだ時、殻を破った。
「ずっと失敗を恐れてきた。けど、失敗してみるとそこまで大きなことじゃなかった。どうしてそんなに恐れていたのか」
どん底まで沈んだことで、「それでもスケートが好き」というシンプルな思いを確かめることができたという。
あの分岐点から2年4カ月。今、「この先どんなことをなすことができるか、期待を込めてスケートをしている」と語る。再出発の地、フランスのリンクには今回、あの日とは見違えるような宇野がいた。フリー終盤のステップでは、演技中だというのに笑みさえこぼれた。
めざすゴールは、ずっと先。
「来季、成績が落ちてしまうくらい新たな挑戦をして、もっと成長したい」
滑る喜びとともに、これからも突き進む。