そして、合理化の次は「リスクとコスト」について思考をめぐらすのだという。
リスクとは、実行した場合に逮捕されるなどのリスク。コストとは、自分の犯罪が知られることによって、自分が失うものの大きさを指す。この二つが大きいと判断すれば、犯罪行為にはいたらない。
深く考えなくてもわかりそうなものだが、合理化した心理状態では、そう簡単ではない。犯罪へと向かって行く最中は、物事を判断する視野が極端に狭くなってしまうのだという。夫や妻がいても、子供がいてもだ。
「リスクについては、『渡される物の中身や、そもそも犯罪だとは知らなかったのだから逮捕はされないだろう』。コストには、『その言い逃れが最後まで通じるはずだから、失うものはない』。そんな具合に双方を過小評価し、ついには犯行に至るのです。自分の行動を合理化によって正当化し、コストとリスクを非常に小さく見積もる。犯罪加害者の多くが、このような心理的な経過をたどります」(出口教授)
そもそも、この主婦はなぜSNSの闇バイトに行きついたのか。「生活の足しに」という程度なら、仕事を探す手段は他にもあったはずだ。「合理化」うんぬんの前に、単に欲をかいただけのようにも思える。
だが出口教授は、主婦のケースは特殊ではないとし、「普通の人」なら誰でも同じような状況に陥る可能性があると言い切る。
「例えば、少しだけいい服やアクセサリーを買いたい。ただ、夫に頼ったり家計に負担はかけたくない、などとふと思う主婦はたくさんいるはずです。そんな時、手軽で給料が高い『おいしそうな』仕事を見つけると手を出してしまいがちになる。なぜなら、そうした仕事を探している時点で、すでに『合理化』は始まっているからです。そして、その対象を見つけると、必死に合理化を繰り返していってしまうのです」
特殊詐欺の被害額は年間で300億円近くに達し、深刻な事態が続いている。その状況下で、捜査関係者が指摘するのは特殊詐欺の「受け子」の不足だ。