特殊詐欺の「受け子」役として高齢者から現金を詐取したとして、42歳の女が逮捕された。報道によると、女はいわゆる「普通の主婦」でSNSの闇バイト求人に引っ掛かったようだ。動機は「生活費の足しにしたかった」という素朴なもの。犯罪とは縁遠いはずの主婦が、なぜ手を染めてしまったのか。詐欺事件に詳しい犯罪心理の専門家によると、そこには、自分自身さえもだまし「これは犯罪ではない」と肯定する複雑な心理が働いているという。
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報道によると、都内に住む70代男性が今年3月、長男を装った人物から金が必要という趣旨の電話を受け現金600万円をだまし取られた事件で、42歳の女が警視庁練馬署に逮捕された。女は「受け子」で、会計事務所の職員になりすまして被害者の男性に接触し、現金が入った封筒を受け取ったという。
きっかけは女がSNSで「荷物の受け取り数万円」と書かれた投稿を見つけたこと。女はいわゆる「普通の主婦」で「生活費が足りず、生活費の足しにしようとした」と供述する一方で、「だまし取るつもりはなかった」とも話したという。
SNSを使った闇バイト求人への注意喚起が当局などから出されている中、「普通の主婦」が、「荷物の受け取り数万円」といういかにも怪しい求人に、なぜハマってしまったのか。
詐欺などの犯罪や、犯罪心理に詳しい東京未来大学の出口保行教授によると、こうした容疑者が犯行へと突き進む過程では、心理学における「合理化」というメカニズムが働くのだという。
「合理化」とは何か。
出口教授は「自分にとって都合の悪い現実を、もっともらしい理由付けをして正当化していく。これを合理化と呼びます」とし、女の心理をこう推察する。
「この主婦の場合、お金を手に入れたいという目的がまずあります。それをかなえるため、犯罪に違いないであろうSNSの求人に対し、『荷物を受け取るだけだから』『中身が何かは知らないから』などの理由付けをして、募集に応じることを正当化しようとしたと考えられます。そして、合理化の作業を繰り返していくと、正当化するための理由付けが、いつしか確信に変わるのです。受け子で逮捕された容疑者は逮捕直後、『中身を知らなかった』などと犯意を否定することが多いですが、まさに合理化によってその心理ができあがっているのです」