2022年のメジャーリーグ開幕戦で、史上初の「1番・投手」で先発出場を果たしたエンゼルスの大谷翔平(27)。今季も、私たちの想像を超える記録を生み出してくれることだろう。実は、現地・アメリカでは日本ではあまり知られてない、大谷をめぐるさまざまな“ドラマ”がある。大谷翔平の番記者を務めた経験もある在米ジャーナリストの志村朋哉氏の新著『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』(朝日新書)から一部を抜粋・編集して掲載する。
* * *
■「オオタニ」を愛する3歳の少年
大谷がメジャー2年目だった2019年秋、物心がついた時から野球が好きでたまらない自分の息子(当時3歳)を地元の少年野球リーグに入れた。他に手を挙げる親がいなかったので、私は息子のチームの監督を任された。
3~4歳で構成されるこの最年少ディビジョンに参加するのは、よほどの野球好きか親が熱心な子どもたちなので、人数は4チームだけ、合わせて30人弱しかいなかった。アウトや点数も記録せず、子どもが楽しく体を動かすことが目的である。言葉もたどたどしい幼児たちが、ぶかぶかのユニホームを着て、一生懸命に走って、投げて、打つ姿はかわいい。
私が任されたのは、メジャーリーグの球団名にちなんだメッツというチーム。偶然にも、息子を含めてやる気のある子が3~4人集まったため、残りの子たちも触発されて全員がメキメキと上達した。半ば無理やりバッターボックスに立たされる子どもが多いリーグで、メッツは当たり前のように強烈なライナーを放ち、他チームの親を驚愕させた。
そんなメッツの中でも特に熱心だったのが、当時3歳になったばかりのルーカスくん。いつも練習に来るなり、キャッチボールやノックをしてほしそうに私に近寄ってきた。打撃練習では、こっちが心配になってやめるまでティーに置かれたボールを楽しそうに何十球と打ち続ける。
母エイプリル・マルティネスさんは、エンゼルスの地元オレンジ郡在住にもかかわらず、大のヤンキースファン。ルーカスくんはお母さんの影響で、いつもバットとボールを手に、メジャー中継を見ながら育ってきた。