ブッシュクラフトの知恵は、防災にも役立つ。小さな火花から安全に火を育て管理する技術やナイフの使い方を知ることは、自然を利用する楽しさと脅威を学ぶ機会にもつながる。
「軍幕キャンパー」をご存じだろうか。軍隊式のキャンプを実践する人々のことだ。
「軍隊では、キャンプも軍事行動ですからね。居場所を知られたり、痕跡を残したりしないようにする技術が求められます」
大きな石がゴロゴロする河原で、小池公明さん(60)はそう言った。小池さんは、21年10月現在で全国に約2万人の会員がいる日本単独野営協会の、埼玉支部役員だ。
「私たちが使っているテントは、さまざまな国の軍隊からの放出品です。シンプルで丈夫な木綿の布製で、いわゆる軍幕と呼ばれるものです」
この日、小池さんが使っていたテントは、身にまとえばポンチョにもなる個人用軍用テントだ。かつては米軍のものが主流だったが、ここ数年ヨーロッパ製を仕入れる業者も増えているという。
「昔から軍放出品として販売されていますし、5年ほど前からソロキャン(ソロキャンプ=ひとりでキャンプすること)の流行で注目されるようになりました。年代や国によって迷彩柄のパターンが違うのも、面白いところです」(小池さん)
環境を傷つけない
各国で装備品の素材が変わったり、冷戦が終結すると、こうした装備品が放出され、出回るという。すべて同じ年代、同じ国の装備で揃える人もいる。
「私は昔から好きだったミリタリーテイストを楽しんでいるだけなので、コット(寝台)も使うし、寒いときはニトリのムートンを敷くことも。『軍幕』としてはライトなほうです」(同)
よく見ると、使った人の名前や管理用の記号が書いてあることも。繰り返し補修した不器用な針目を見ると、かつての持ち主だった異国の軍人に思いを馳せてしまう。
小池さんはしみじみ言った。
「いま心から思うのは、こうした軍幕キャンプも、平和だからこそ楽しめる遊びなのだということです」