五感の内のひとつが狂ったために、残る四感も連鎖しているらしく、次々とハンディを起こし始めている。耳と同様、目も朦朧体になるし、鼻は年中、花粉症、咽は万年喘息持ち、触覚の手は、腱鞘炎でしょ。あと残るのは第六感に頼るしかない。五感がダメでも第六感があるさで、あとの残り少ない人生をアカシックレコードにアクセスして、何とか、誤魔化して生きていくことになるようだ。
まあ、言ってみれば芸術なんて、誤魔化しの天才が歴史に残っているわけだから、何も恐れることはない。真面目な芸術愛好者にはドキッとされたかも知れないが、われわれ美術家にとっては、「タカが美術じゃないか!」という精神でやっているんですよ。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰
※週刊朝日 2022年5月27日号