あとになって考えると、これにはいくつかの理由があったと考えられます。

(1)議員への根回しは資料の細部にも気を抜くなという教え

 まずは、議員に対する根回しには、お渡しする資料の枚数、見やすさ、内容の正確性と簡潔さなど、資料の細部は言うに及ばず、ホッチキス留めの位置がずれていないか(それによって資料を開く際に議員が見にくいなどの問題が生じないか)まで気を配れという意味だったのです。

(2)議員を大事にしていますという議員へのポーズ

 次に、議員に対するポーズであったと考えられます。議員の前で資料の些細な点について部下を叱るということは、そのまま相手の議員を大切にしているというメッセージなのです。そう言われて悪い気持ちになる相手はいないですし、その議員も「まあまあ局長、僕は気にしないから」と問題視しなかったのです。

(3)官僚1年生への教育

 そもそも根回しは官庁ではレベルの高い仕事なので、局長に随行で課長か課長補佐を充てるというのが相場です。この件で係長でもない役所に入ったばかりの新人を連れて行ったのは局長が根回しの現場を新人に教育しようと考えたのだと思います。

■「血の雨が降る」各省協議

 このような国会議員への説明や根回しなどによる交渉に加えて、霞が関の官僚の重要な仕事は他省庁との交渉です。ある政策を実施したい場合、1府11省2庁、つまり14のすべての省庁から合意を取り付ける必要がありますが、予算がかかる政策を財務省が認めなかったり、既存の政策との関係で特定の省庁が反対したりすることがよくあります。最終的には閣議決定しなければ政府の方針とはならないわけですが、閣議で1つの省庁でも反対すれば決定できないので、いわば各省庁は他省庁の政策に関し、拒否権を留保しているとも言えます。

 外から見れば各省庁は政府を構成する内部組織なので身内に見えるかもしれませんが、実際には職員採用も含めた人事は省庁ごとに行われており、他省庁は「同業他社」と言っていいくらいの関係です。ですから、省庁間の交渉や調整過程は、血の雨が降ると言われるくらい、非常に激しいやりとりに発展することもあります。

次のページ
幹部は各省庁に人脈を構築している