仕事にやりがいを感じていている人でも、労働環境がブラックな人でも、転職を考えている人の多くは「人間関係」に悩み、それを主な転職理由としています。気まぐれな上司、言うことをきかない部下、一方的に敵視してくる同期……組織とは人がつくり、人で成り立つものであるがゆえに、人間関係の悩みは尽きません。自分が所属する組織の中でどう振る舞い、どのように人間関係を築くかは、決してAIには代替できない「最強のスキル」なのです。特に規律を重んじる官僚組織では、それはより顕著になります。内閣府の元官僚・久保田崇さんはハードな現場で「処世術(スキル)」を武器に生き残ってきました。その一部を『官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術』(朝日新書)より抜粋。今回は「政治家への根回し」というテーマで、大事な“取引先”との人間関係構築のスキルを紹介します。
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■「お前、大丈夫かよ」と吐き捨てた政治家
官僚にとっては大事な取引先は「政治家」ですので、その根回しについて見ていきます。
官僚は、法案や政策案件について、国会議員に根回しに行きますが、その時にも官僚を部下よりひどく扱い、人とも思わないような議員に遭遇します。あるとき、上司(の上司)である審議官と共に、とある国会議員に根回し(説明)に行きました。私が作成した資料に基づき、上司の審議官が議員に説明を始めます。議員は頭の回転の速い人で、説明の途中で技術的な質問をされました。審議官は私の顔を見ますが、難しい質問だったために、答えなければならないはずの私は即答できません。議員は冷たく「お前、大丈夫かよ」と見下したように吐き捨て、次の話を始めました。
その議員は与党政治家なので、根回しの案件について了解が得られないということはありませんでしたし、幸いにも上司の審議官は温厚な方で職場に戻って叱責するようなことはありませんでしたが、私は勉強不足を指摘されたように感じて情けなく、反省しました。これまでも一定の準備はしていましたが、それ以降、根回し等で説明に赴く案件については、さまざまな質問に備えて、想定問答を念入りに用意するようになったことは言うまでもありません。