古賀茂明氏
古賀茂明氏
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 5月23日朝のNHKBSの「ワールドニュース」を見ていた時のこと。

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――日本は静かに平和主義を放棄している――という通訳の声が流れた。

 平和主義放棄の象徴なのか、安倍晋三元総理の映像も流しながら、台湾情勢など中国の不穏な動きを受けて、日本が大きな政策転換を行いつつあることを淡々とではあるが、かなり詳しく報じたのは、英国BBCのニュースだった。

 日本では特に話題にならなかったが、日本の平和主義放棄がBBCで詳しく報じられたことは、逆に言えば、これまで、日本は平和主義の国だと世界がはっきり認識していたということを示している。ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会演説で武器供与を要請しなったのは、日本国憲法9条を尊重したからだという話を前々週号で紹介したが、その日本の平和ブランドを日本自らが「放棄」しつつあると諸外国が見ているのだとしたら、深刻な問題だ。

 本来、日本政府は、平和ブランドを守るために、「日本の平和主義は不変だ」と世界に発信するべきだ。しかし、米国のバイデン大統領と会談した岸田文雄総理が世界に発したメッセージは、我が国が米国とともに中国封じ込めの最前線で戦うこと、そのために「反撃能力」と言い換えた「敵基地攻撃能力」を保有すること、そして防衛費を大幅に増大させることだった。平和主義のアピールどころか、日本が軍事大国化の道に転じたと大々的に宣伝したも同然だ。

 米中の間でバランス外交を目指す国が大多数のアジアの中で、日本の姿勢は際立って偏向したものに映る。なぜこうなってしまうのか。日本同様中国と北朝鮮の脅威に対峙するために対米協調姿勢を鮮明にする尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が率いる韓国と比べると、日本の苦境が良くわかる。

 米国は中国封じ込めのために、韓国企業の技術と投資の力を頼りにしている。バイデン大統領は、サムスン電子の工場を視察して「刑事被告人」である李在鎔(イ・ジェヨン)副会長と握手し、さらに同社の170億ドルの対米投資を「INCREDIBLE(信じられないくらい素晴らしい)」と持ち上げて謝意を表した。

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経済面でアメリカに恩を売った韓国