小渕氏を含め、村山、橋本、小渕、森、小泉の5人の首相に仕えた古川貞二郎氏も厚生労働省事務次官ののちに8年にわたって内閣官房副長官という、すべての省庁の官僚に君臨する官僚トップの役職を務められました。古川さんは腰が低く、威張らない方で、かつ飾らない実直な人柄だからこそ、信頼されて敵をつくらず、要職を務めあげました。私は退官後の古川氏に「一念一念と重ねて一生なり」という言葉をいただき、座右の銘としています。古川さんの出身地、佐賀県に伝わる『葉隠(肥前国佐賀鍋島藩士・山本常朝による書物)』の言葉だそうです。古川さんのように上からも下からも人望あつければ、敵が少なく、味方が多いこともうなづけます。市長の立場となった今、敵をつくらず一瞬、一瞬を大事にする積み重ねを私は大切にしています。

■組織内のいざこざに巻き込まれてしまうとき

 敵をつくらないようにと心掛けていたとしても、組織内のいざこざに巻き込まれてしまうこともあります。

 例えば私の経験でも、こんなことがありました。

 同期入庁の者同士が仲が良いとは限りません。「俺が同期で一番だ」「あいつのやり方は気にくわない」などの理由で、お互いに反目しあうことはよくあることです。本人同士が同じ部署で働くことはないとしても、気の毒なのはその部下や同僚など周囲の職員です。「俺とあいつとどっちにつくんだ」と言われたら、困りますよね。

 私の場合は、反目しあう二人を順に部下として支えたことがあり、人事異動の前後でそれぞれの上司から「よくあいつの下で働けたね。大変だっただろ」などと話しかけられ、どう対応して良いか困りました。もっとも、この両者は水と油のように反目しあうだけあって性格や仕事の進め方が大きく異なり、その点でも大いに勉強になりました。

 また、あるときは、異なる部長同士が反目しあうことがあり、それが原因で、本来協力して進めなければならない仕事が滞るということがありました。会議では、両者一歩も譲らず、お互いに顔を真っ赤にして議論するのです。こうなるともう、理屈はそっちのけで、プライドをかけた意地の張り合いです。裁定すべき立場にあった副市長の私からしても、どちらの意をくみ取ってもしこりが残りそうで、対応に苦慮したものです。

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会議ではどちらかの肩を持つ発言はしない