三浦:ラウンダバウトは、最初はゆるい中古家電の店だと思っていたけど、途中からセレクトが「ていねいな暮らし」系の雑貨に変わった印象がある。あれは何か意図があったの?
小林:最初はアメリカ西海岸のフリーマーケットを巡って、60年代のラジオや電話機などを買い付けてきたので、結構スペースエイジ色が濃かったんです。その後徐々に、業務用のステンレスバットだとか野田琺瑯(のだほうろう)とか、シンプルな生活道具の割合が高まってきました。
さっきルイジ・コラーニの話をしましたけど、自分のなかのもうひとつの下地として、柳宗理(やなぎ・そうり)の存在もあったんです。大学生のときにセゾン美術館で展示を見て、柳宗悦(やなぎ・むねよし)よりも先に宗理に出会い、そこでアノニマス・デザインの概念をインストールされたというか。
世の中の変化を感じたのは、2005年に『物語のある暮らし雑貨』というムックの取材を受けたあたりからですかね。それ以降、暮らし系の気配のするお客さんが増えてきました。
河尻:なるほど。クウネル族の時代とでもいうのか、2003年に創刊した雑誌『クウネル』は「ストーリーのあるモノと暮らし」というコンセプトを掲げていました。スローライフ的な価値観が脚光を浴びたのもその頃ですね。当時、キユーピーマヨネーズが「シンプルに生きることにした。」というキャッチコピーのCMを流していて、共感した記憶があります。ちなみに雑誌『アルネ』の創刊号では、柳宗理を特集しています(02年)。ていねいな暮らし系の雑誌は流行しましたね。
【中編】に続く
●三浦 展(みうら・あつし)
1958年生まれ。社会デザイン研究者。1982年一橋大学社会学部卒業。株式会社パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。著書に『大下流国家』(光文社新書)、『都心集中の真実』(ちくま新書)など
●小林和人(こばやし・かずと)
1975年生まれ。海外と郊外で育つ。1999年に吉祥寺の古いキャバレー跡のビルで国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を友人数名で始める。2008年、物がもたらす作用に着目した品ぞろえを展開する「OUTBOUND」を開始。建物の取り壊しに伴い、2016年にRoundaboutを代々木上原に移転。2021年には「LOST AND FOUND」(ニッコー株式会社)の商品選定を担当。著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)、『「生活工芸」の時代』(共著、新潮社)がある
●河尻亨一(かわじり・こういち)
1974年生まれ。取材・執筆からイベント、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムをつなぐ活動を行う。カンヌライオンズを取材するなど、海外の最新動向にも詳しい。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』(左右社)がある。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(朝日新聞出版)で第75回毎日出版文化賞受賞(文学・芸術部門)