■「もう、屋久島に住めば?」
これまで屋久島には60回ちかく通い、写真集も3冊出版した。
「でも、何回行っても飽きないんです。同じ場所に行っても毎回、『あれ? 屋久島、こんなところだったの』、と思うんですね。通っているけれど、気づいていないことがある。それを全部、知りたい、見たい、写真に撮ってみたい」
周囲から「もう、屋久島に住んじゃえばいいじゃない?」と、言われることがけっこうあるいう。
「でも、住んでしまったら、新鮮さを感じられないんじゃないか、新しいものを見つける感覚がなくなっちゃうのでは、と思いますね。屋久島に暮らしていれば『今日は天気がいいから出かけよう』とか、できるのはすごくいいですけど」
■通うことで蓄積されるもの
これほど通ってもまだ歩いていないルートがある一方、屋久島に行けば必ず訪れる場所もある。その一つが比較的手軽に屋久杉を見られる「ヤクスギランド」。
「この入り口から遊歩道を歩いて1.5キロくらいのところにある『蛇紋杉』がすごく好きなんです。倒木なんですけど」
興味深いのは、蛇紋杉を訪れる理由だ。
「蛇紋杉に行って撮るか、といったら、撮らない。ただ、好きで見に行くだけ。まあ、途中で何かを見つけられればいいや、くらいの感じで、とりあえず、歩いて行く。それで、(ああ、蛇紋杉を見たな)と。そこでぼーっとしたり、また別のところに行ったりする」
秦さんいわく、「被写体をどれだけ理解しているかは、通うことによって蓄積されるものによって決まる」そう。
「その蓄積にはものすごく長い時間が必要で、そのために何回も通い、何回も歩く。その歴史が、ぼくの中にはあります」。秦さんは自信を込めて語った。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】秦達夫写真展「Traces of Yakushima」
キヤノンギャラリー銀座 6月28日~7月9日
キヤノンギャラリー大阪 10月18日~10月29日