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1993年に日本で初めて世界自然遺産に指定された屋久島(鹿児島県)。その豊かな自然を20年ちかく追い続けてきた秦さんの写真展「Traces of Yakushima」が6月28日からキヤノンギャラリー銀座(東京)で開催される。
昨年開いた写真展「Harmony」では、ミュージシャンのSUGIZOさんをこの島の深い森のなかで写した作品を展示した。意外なことに、人物と風景の撮り方は基本的に変わらないという。
「ジャンルが違うから、別モノと思っている人が多いですけれど、ぼくにとってはまったく同じで、光の加減もそうだし、場所選びもそう。ただ、撮っているものが人か風景かの違いだけです。強いて違いを挙げれば、レフ板やストロボを使うといった細かなテクニックくらいですね」
そんな撮影スタンスを持つ秦さんは、屋久島の樹齢数千年の大木に対して、「ぼくが経験していない昔のことを知っている、いきもの、という気持ちがある」と言い、屋久杉のことを長い人生のなかでさまざまな出来事を見てきた古老のように話す。
「この木が持っている時間と、ぼくの持っている時間では圧倒的な差がある。それを前にすると、自分がちっぽけに見えるし、その何千年という時間のなかにいられる自分の存在が不思議に感じられるんです」
■時間という概念をなくしたい
屋久杉を目の前にして感じた、時間がないような感覚。それを表現するために選んだのが、真四角のフォーマットだった。
「例えば、35ミリ判カメラの画面は横長ですけど、それは時間の流れとか方向性を暗示しているように感じる。画面が真四角であることはぼくにとってはすごく大事で、屋久杉はこの『時間の概念がないフォーマット』で表現することが望ましいと思いました」
撮影で使用したブロニカGS-1は本来、少し横長の6×7判のカメラなのだが、2回目に屋久島を訪れたときからフィルムバックを6×6判に交換して使うようになった。
「つまり、時間という概念をなくしたい、という考えの表れです。それによって生まれてくるものがある、と思います。実際にそれが生まれているかはわかりませんけれど、そういう世界観をつくり出したかった」
さらに写真の「色」も時間の表現に大きく関わっているという。
「昼間の白い光が夕方の赤い光に変わっていく。若葉のときは緑だけれど、それが黄や赤になるとか。色があることで、写真に時間の概念が備わってくる。モノクロで撮ることによって、時間の概念がなくなる、とまでは言えませんけれど、それが薄れていく」