実際に3割打者の数を見ると、10年まではセ・パ両リーグとも2桁の数が多かったが、翌年の統一球導入後は減少傾向にある。

AERA 2022年7月4日号より
AERA 2022年7月4日号より

「野球って3割打者、つまり7割も失敗している人が『すごい』と言われる世界。ひじょうに微妙な差異が結果を左右する、微妙なスポーツなんです。統一球という『極めて誤差の少ないボール』の登場が投手有利に働いた可能性はあると思います」

 一方、「打者はあまりに無策」と手厳しいのは解説者の田尾安志さん(68)だ。中日などで活躍した現役時代に「安打製造機」の異名を取り、楽天の監督も務めた実績を持つ。

「日本の野球の良さはねちっこさ。カウントで追い込まれても何とかバットに当てて、走者を進塁させるような姿勢も大事です。しかし、最近は追い込まれても、あっさりフルスイングの空振りで終わり、という選手があまりにも目立ちすぎる。大リーグの野球を見る機会が増えた影響もあり、フルスイングを良しとしているのかもしれません」

■落ちる球を諦める打者

 今季快挙を達成した4人の投手に共通するのは、フォークボール(直球の軌道から打者の近くで落ちる)やスプリット(速く鋭く落ちる)、シンカー(投手の利き腕の方向に曲がり落ちる)などの「落ちる球」を持っていることだ。それに対して打者が「この球が来たらもうしょうがない」と諦めている印象がすごく強いと田尾さんは言う。

「現役時代、フォークが代名詞だった佐々木主浩(横浜=現DeNA=など)や野茂英雄(近鉄など)とも対戦しましたが、何とか三振したくないと工夫をしていました。ポイントは、引っ張らずに『逆方向に打つ意識を持つこと』。ほんの少しですが球を体の近くまで呼び込めることで球種を見極める時間が長くなり、バットに当たる確率が高くなるんです。いまの打者は速い球に負けたくない気持ちが悪い意味で働き、フルスイングすることだけで納得してしまっているのかなと感じます」

 川村さんはフルスイングが多いもう一つの背景として、統計学的見地から野球を分析・評価するセイバーメトリクスの手法が浸透しつつあることを挙げる。

「打者の評価指標としていま重視されているのが『OPS』。出塁率と長打率を足し合わせた数値です。『長打を打てて出塁の多い選手』がチームの得点と勝利により貢献するということです。言い方を変えれば『打率を軽視する状況』と言えなくもない。長打を狙うことで打率が下がってしまう打者が増えるのは、そんなに不思議なことではないとも言えます」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年7月4日号

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼