「私、今まで歌ってくださったの、1曲も知らないです。1曲も知らない、もういかに(自分が)時代遅れかわかりました」
タイミングとしては、56組中17組が歌い終わったところ。実際、その時点ではその年のヒット曲らしいヒット曲は河口恭吾の「桜」くらいだったし、誰もが知る懐メロも歌われていなかった。彼女自身は自虐ネタのつもりだったはずだが、かなりの人が橋田に共感したのではないか。「時代遅れ」というか、時代とズレていたのはむしろ紅白のほうだったのだ。
そんな状況を打開すべく、翌年の第56回に向けて、NHKはさらなる改革的試みを行った。「スキウタ~紅白みんなでアンケート~」である。戦後60年の歌を対象に、はがきや携帯電話、パソコン、データ放送を通じて「紅白で聴きたい曲」を投票してもらい、その結果を出場歌手や曲目の選考に反映させようとしたわけだ。
これはそれなりに注目されたが、大成功とまではいかなかった。まず、中間発表の段階で組織票疑惑が発生。たとえば、上位20曲に橋幸夫の持ち歌が3曲入ったりした。とはいえ、彼も一時代を築いた歌手だし、最終結果でも紅組22位に吉永小百合とのデュエット曲「いつでも夢を」白組68位に「潮来笠」が残っている。その気になって、着物を新調したともされるが、紅白には呼ばれず「もう二度と出ない」とぼやいた。
他にも、紅組上位20曲に2曲が入った中森明菜が落選するなど、アンケート結果がそれほど反映されていない印象がもたらされることに。しかも、これについてプロデューサーは「全部リクエスト曲にすると『あなたが選ぶスキウタトップ100』みたいになり、紅白でやる必要がなくなってしまう」と説明した。こうして、制作側の思惑もしくは事情と視聴者側の期待のあいだに「ズレ」があることも垣間見えてしまったのだ。
また「ズレ」といえば、こんなこともあった。司会者が発表された際、白組司会の山本耕史が「スキウタ」について質問され「何?スキウタって…」とリアクション。紅組司会の仲間由紀恵が「視聴者から聴きたい歌を選んでもらうアンケートですよね」とフォローしたのである。