「九段 斑鳩」の特製濃厚らー麺は一杯1000円。菅野製麺を使っている(筆者撮影)
「九段 斑鳩」の特製濃厚らー麺は一杯1000円。菅野製麺を使っている(筆者撮影)

 日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。本物の食材で作る上質な一杯で20年以上、東京のラーメンシーンを牽引する店主の愛する一杯は、不器用なまな弟子がたどり着いた地元産の食材をふんだんに使った“おもてなし”の一杯だった。

【写真特集】「斑鳩」店主が愛する「おもてなしのラーメン」はこちら!

■「クリエーターかぶれになっていった」名店店主の気づき

 2000年に九段下でオープンした「九段 斑鳩」(16年に市ヶ谷に移転)。香り高い魚介のスープに厚みのある動物系スープを加えて仕上げた「斑鳩」のラーメンは、東京のラーメンシーンを20年以上も牽引する横綱的な一杯だ。アパレル業界出身の店主・坂井保臣さんのセンスがそこここに光り、ラーメンの味のみならずその世界観すべてが上品に映る名店だ。

九段 斑鳩/〒102-0074 東京都千代田区九段南4-7-16 ヒューリック市ヶ谷ビル1階/月 ~土、11:30~15:00、日曜定休(日曜以外は祝日でも営業)/筆者撮影
九段 斑鳩/〒102-0074 東京都千代田区九段南4-7-16 ヒューリック市ヶ谷ビル1階/月 ~土、11:30~15:00、日曜定休(日曜以外は祝日でも営業)/筆者撮影

「斑鳩」はオープン時から他のラーメン店とは一線を画していた。街に根付いた店づくりを目指しつつも、本物の食材を使って上品に仕上げることに注力した。坂井さんは周りのラーメン店よりも、同じ価格帯の別の飲食店の動向を気にしていた。特に気になっていたのはスターバックスコーヒーの台頭だった。

「本物志向で、今までの店よりも高額のカフェが受けるのかどうかがとにかく気になっていました。いわゆる“意識高い系”の商品への、一般からの反応が楽しみだったんです。スタバは成功をおさめましたが、我々としては、高級食材を使いながらも低価格を維持し、“数を売る”ことで頑張ることに決めました。そのほうが楽しんでいただけるお客さんの数が増えるからです」(坂井さん)

 10年に10周年を迎えたのを機に、坂井さんは従業員一人ひとりと1on1ミーティングを実施。独立希望者が多いかと思いきや、「ずっと斑鳩で働きたい」という社員がいることを知る。従業員の人生を預かるにはもっとしっかりとした会社に成長しなければと考え、支店展開を決意する。

「九段 斑鳩」店主の坂井保臣さん。まな弟子の藤岡さんを見守り続けている(筆者撮影)
「九段 斑鳩」店主の坂井保臣さん。まな弟子の藤岡さんを見守り続けている(筆者撮影)

 そのタイミングで、東京駅の「東京ラーメンストリート」出店のオファーがやってくる。正確に言うと、実はオファーはこれが初めてではなく、坂井さんはかつて出店を断った過去があった。

「もう一度お声がけいただけるとは思っていなかったので、感謝しかありません。以前は支店を考えていなかったのでお断りしていましたが、東京駅に支店を出せるというこれ以上ないチャンスをいただき、喜んで出店させてもらうことにしました」(坂井さん)

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井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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