
「地域に根差したお店ではなく、ラーメンフリークだけが来るお店になっていたんです。それでは成田でやっている意味はないし、自分の目指すものにはならない。そこでまず始めたことは、道の掃除です」(藤岡さん)
藤岡さんは店の周りの掃除を通して、近隣の人とコミュニケーションを取り始めた。「斑鳩」時代に接客をやっていた頃のことを思い出し、味だけでなく、コミュニケーションでも自分らしさを出せることに気づいたのだ。
店内での接客にも変化が出てきた。お客さんの顔を一人ひとり覚えて、常に目配り気配りをする。ラーメンを作る以前に客商売であることに目を向けたのだ。これは「斑鳩」の坂井さんが東京駅に支店を出した時の気づきに大変よく似ている。
ここからは毎年少しずつ売り上げを伸ばし、成田の人気店として街に根付いていく。気づけば10年の時が過ぎ、この9月で11年目を迎える。
「斑鳩」の坂井さんは、藤岡さんが独立する頃のことを思い出しながら語る。
「不器用だけど真面目な弟子です。独立の頃は自分の思い描いた一杯が作れず悩んでいました。反対したこともありましたが、彼の思いを壊さずに成功させるにはどうしたらいいか一緒に考え抜きましたね。いつかの雑誌の企画で師弟の店として紹介され、久しぶりに一緒にラーメンを作ったとき、本当に頼もしく成長していてうれしく思いました」(坂井さん)
藤岡さんも坂井さんから学んだ商売に対する姿勢を忘れていない。
「お客さんを喜ばせることを他の何より優先する人です。あんなに高級食材を使ったラーメンを1千円にしない理由にも驚きました。『ラーメン食べた後、お釣りで缶コーヒーでも買えたら幸せだろ』と、お店を出た後のことまで考えられる人なんです。このおもてなしの心は簡単にまねできるものではないと思っています」(藤岡さん)
坂井さんが何より大事にするおもてなしの心が、藤岡さんの「clover」にもしっかり根付いている。長く続く店にはラーメンの味以外の何かが必ずある。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
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