写真家・梁丞佑(ヤン・スーウー)さんの作品展「ヤン太郎 バカ太郎」が9月17日から東京・六本木のZen Foto Galleryで開催される。梁さんに聞いた。
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待ち合わせ場所の東京・池袋駅前の交番に歩いて行くと、見覚えのあるいがぐり頭が目に入った。梁さんだ。
梁さんはコンビニで発泡酒を買うと、手慣れた様子で近くの公園の隅に行き、地面に腰を下ろした。刷上がったばかりの写真展案内を手渡される。
「これ、つくるときから(どう見てもバカだなあ)と思って」と、つぶやく。
黄色い台紙の写真展案内には、くわえたばこの梁さんが大きなサバイバルナイフを手に写っている。
■今回の作品は「B面」
作品は2009年から最近までの写真で構成された自伝的記録で、09年に発表した「青春吉日」の続編といえるかもしれない。
「酒を飲みながら、『誰でも撮れ』と、カメラを放っておく。酔っぱらっているうちに、誰が何を撮ったかわからない」
そんな「青春吉日」の手法が踏襲され、働き、遊び、羽目を外す梁さんとその周辺を写したドキュメンタリーになっている。
「『青春吉日』をヤン太郎のA面とすれば」、今回の作品はB面。ばかばかしい笑いがこみ上げてくるような写真に哀愁が交錯する。
最初に見せてくれた写真には花が写っている。
「花が好きなんですね」と声をかけると、「花に小便をかけるのが好きなんです」。よく見ると、一筋の黄金色が写っている。「あっ、ほんとだ」「ちゃんと見てくださいよ!」。
写真展案内にはこうある。
<幼少期の記憶や「原風景」が、制作物に重要な役割を果たすというのはよく聞く話である。だから、子供心を忘れるのは、作品制作をするものにとっては一大事なのだ。すなわち、なかなか大人になれない僕は、そのままでいいと言われているわけで…>
■アルバイトで生活費を稼ぐ日々
梁さんが韓国から来日したのは1996年。それまでチンピラのような生活をしていた梁さんは日本で写真を学び、2006年、東京工芸大学で修士課程を修了した。しかし、現実は厳しかった。
<大学を出たらすぐに何とかなると思っていた。しかし理想と現実の間に立ちはだかる壁は予想以上に高かった>(写真展の文章から)
建設作業、クリーニング、カーペット敷き、油田探し、テキ屋などなど、アルバイトを転々としながら生活費を稼いだ。
作品のなかにもさまざまなアルバイトが登場する。なかでも、いちばん多く登場するシーンが「油田探し」。
写真展案内にある大きなナイフは草や枝をなぎ払うためのもので、ジャングルでの油田探しでは必需品という。
「プロジェクトが始まるときにひとり1本ずつ支給される。もちろん、日本でこんなふうに持っているとヤバいです(笑)」