撮影:山下裕
撮影:山下裕

■コロナ禍で行き詰まった

 2人は日本語を話せるため、取材もしやすかったが、当初は技能実習生というテーマで二人を軸に作品をつくるとは思ってもみなかった。

 そもそも、二人が日本を訪れたのは「15年から18年で、私が初めてシプタゲラ村に行ったのは19年。つまり技能実習は終わっています」。

 そんなわけで、作品にある二人の沖縄の写真は山下さんが撮影したものではない。それについて、山下さんはこう説明する。

「最近は、写真の表現手法として、いわゆる『ファウンド・フォト』がだいぶ認知されてきていると思うんです。要は、自分が撮影していない写真をストーリーの説明や表現の一部として活用していく」

 今回なぜ、そのような手法で作品をまとめることにしたのか? たずねると、「このテーマをどうまとめていくか、行き詰まってしまったことがありまして」と言う。

 新型コロナの影響で、昨年1月を最後にインドネシアに行くことができなくなってしまった。

 さらに、「私の興味のジャンルが変わってきているというのもある。だんだん身近なものに関心が移ってきた。それが今回の写真展のテーマ、技能実習生だった」。

 インドネシアには行けなくなったものの、山下さんは糸満市を訪れ、二人が住んでいた町や実習を行った畑などを撮影し、作品に組み入れた。

撮影:山下裕
撮影:山下裕

■村の風景が変わる予感

 興味深かったのは二人が日本にやってきたころと、沖縄での暮らしになじんできたころの姿を並べた写真。最初は民族衣装を身に着けていた二人は、次第に日本人と変わらない服装になっていく。特にエピンさんは別人みたいに違って見えた。

 そのエピンさんを山下さんは、シプタゲラ村のいちばん好きな場所に立ってもらい、撮影した。

 村の中心にあるため池のほとりに立つエピンさんの姿を見ると、スカーフを巻いているものの、黒い服は着ていない。

 ビジネスと呼べるものが何もない故郷の村の現状を少しでも変えたいと願い、日本を訪れた二人。近い将来、シプタゲラ村の風景はずいぶん変わる気がした。

(文・アサヒカメラ米倉昭仁)

【MEMO】山下裕写真展「二つの記録」
ニコンプラザ東京 ニコンサロン 8月17日~8月30日

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