
写真家・山下裕さんの作品展「二つの記録」が8月17日から東京・新宿のニコンプラザ東京 ニコンサロンで開催される。山下さんに聞いた。
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作品はインドネシアの山村で生まれ育った二人の青年が技能実習生として2年間、沖縄県糸満市で過ごすうちに次第に日本になじんでいく、というストーリー。
山下さんの話を聞くうちにエディ・マーフィ主演のコメディー映画「星の王子 ニューヨークへ行く」(1988年)が思い浮かんだ。
アフリカ某国の王子がニューヨークへ行く、という愉快な冒険物語なのだが、山下さんが撮影した若者の一人も王族なのだ。
■伝統と信仰に生きる人々
インドネシアの首都ジャカルタから南へ約100キロ。入り組んだ山岳地帯の奥にカセプハン・シプタゲラ村はある。
カセプハンは、古くからの慣習に沿って生きる人々のコミュニティーを指し、人口は5000人ほど。その中心的存在である王、アバ・ウギがシプタゲラ村に住んでいる。
ジャカルタのような大都市は人であふれ、近代化が進むが、シプタゲラ村ではそれとは正反対に、自然と調和した自給自足の暮らしが営まれてきた。

スンダ様式と呼ばれるシンプルなヤシの葉でふいた屋根の家が立ち並び、周囲の山の斜面にはいたるところに棚田がつくられている。そんな棚田の写真にはたくさんの実をつけて垂れる立派な稲穂が写っている。
村の一角を写した写真には小さな家のような、かわいらしい建物がたくさん並んでいる。聞くと、米を保管する倉庫という。ただ、それは単なる倉庫ではなく、信仰とも密接な関係があり、米の形で現れる女神への敬意の象徴でもある。
男性はみな黒い服を着るのがしきたりで、頭にスカーフを巻かないと出歩くことができない。
■カメラを出すことも難しかった中国
山下さんがそんな伝統と信仰に生きる人々の村を訪れたのは2019年5月。
「インターネットで調べていたらシプタゲラ村の写真を見つけたんです。いまでも王を継承しているところとか、魅力的な文化にすごく興味を持ちました。絵的にもいいな、と」