また医学部は、コロナ禍で奮闘している。つい最近の21年2月には、田辺三菱製薬と提携し、新型コロナウイルス感染症の治療薬の共同研究開始を発表。同感染症の研究解明をめざす20年4月の「慶應ドンネルプロジェクト」発足以降、産学連携が盛んだ。
「これらの学部は医療関係者にとってはインパクトがありますが、一般企業に勤めている社会人にしてみるとあまり身近なことではないのかもしれません。『20年で社会的評価が高まった大学』で早稲田大と慶應義塾大の間に入った近畿大(4位)も、ここ20年で、企業への就職者の多い国際学部や建築学部など多数の学部を新設してきました」(安田さん)
社会人からの評価という視点では、OB・OG会である「三田会」の存在が慶應義塾大の強みの一つとして挙げられる。「東芝三田会」「トヨタ三田会」など、211の企業で個別の三田会を組織している。これら「勤務先別三田会」のほか、「公認会計士三田会」「三田法曹会」といった「職域三田会」も存在する(慶應連合三田会HPから)。大学内にとどまらず、経済界にも影響を及ぼす大規模なネットワークだ。早慶の逆転について、安田常務は、こうしたネットワークが「称揚されない時代になっているのでは」とみる。
「慶應はOB・OGの結びつきが強固な印象があります。しかし昨今はコロナ禍でリモートワークの推進などもあり、集団よりも個が大事な時代になってきているように思います。そういった情勢も早稲田に味方しているのかもしれません」
小林哲夫さんは、両大学の就職先の違いを指摘する。
「早稲田からは近年、Uターン・Iターンによる地方公務員就職者が多く輩出しています。そのため全国の社会人が、新卒の早稲田出身を目にする機会も増えているのではないでしょうか。ここは大企業志向の慶應との違いだと思います」
入試に対する姿勢も影響していると指摘するのは、前出の小林浩所長だ。
「早稲田大政治経済学部は、21年度入試から大学入学共通テストの『数学I・数学A』を一般選抜の必須科目に課したことが話題になりました。『文系であっても、大学に入ったら数学を必要としますよ』というメッセージを、入試を通じて発信してきました。これが教育改革とあいまって、早稲田大は人材育成に力を入れているというイメージが伝わっているのではないかと思います」
教育改革、グローバル化、入試改革。三位一体の戦略が、受験生のみならず、社会人のもつイメージまでも塗り替えつつある。
(文/白石圭)
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