OBから首相は誕生していない。最も近いのが自民党前政調会長の岸田文雄氏(76年)である。
「開成から総理が生まれるのはうれしいけど、そのために永霞会を発足させたわけではありません。OBの政治家と官僚が国のために折に触れて協力し合えばいいと考えています」(井上氏)
ただ、「政界フィクサー」とも呼ばれ、政界に強い影響力を持つOBはいる。読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏(43年)だ。東大文学部出身である。
開成OBの国会議員は東大-官僚経由が多い。上野宏史氏(89年)は経済産業省、小林鷹之氏(93年)と鈴木馨祐氏(95年)は財務省、城内実氏(84年)は外務省、鈴木憲和氏(00年)は農林水産省の出身だ。
現役官僚は、高校別では開成出身が最も多いとされる。開成OBの経産官僚が理由を説明する。
「開成の入試は基礎を問うものです。短時間で多くの問題をこなす力は、官僚の事務処理能力に通じるものがあります。開成は入試の点で官僚向きの人を選抜したと言えるのかもしれません」
ビジネス界にもOBは多数いる。その一人、マネックス証券会長の松本大氏(82年)は、妻がテレビ東京のキャスター・大江麻理子氏であることでも知られる。
松本氏は東大法学部出身。大学入学後、開成の同級生と生活し、進学塾を経営したことがある。毎晩のように話し込み、「こいつは俺より俺のことをわかっている。家族のように信じられるヤツだ」と思うようになったという。開成の特徴はここに示されていると話す。
「開成に入学すると、初日から理不尽なことを言う先輩がやってきます。自分たちが上級生になれば、後輩にも同じことをします。ここでタテの関係ができる。同時に同級生というヨコの存在も築かれ、タテヨコいずれも『あいつは成績優秀』というより『あいつはいいヤツ』が評価基準となって深く付き合い、それが卒業後も続くのです。いまでもすぐ飲みに行ける仲間は100人います。それぐらいみんな開成愛が強く、仲間を大切にして助け合います」
(小林哲夫)
※週刊朝日 2021年4月2日号より抜粋