雌阿寒岳夕照(撮影:白川義員)
雌阿寒岳夕照(撮影:白川義員)
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 写真家・白川義員さんの作品展「永遠の日本/天地創造」が2月27日から東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催される(第一期「永遠の日本」2月27日~4月4日、第二期「天地創造」4月6日~5月9日)。白川さんに聞いた。

【写真】白川義員さんの「天地創造」の世界

「私の人生、最後の作品です。よくこれだけのものを撮ったなあ、と思いますね」

 白川さんは写真展の図録「天地創造」のページをめくりながら感慨深げに語った。

 今回の写真展は集大成といえるもので、わが国の豊かな自然を写した「永遠の日本」と、世界各地の壮大な風景を写した「天地創造」の二期構成。空撮による大胆な撮影アングル、鮮烈な色づかいなど、「前人未踏」を胸に、地球の風景を撮り続けてきた白川さんの作品を堪能できる。

 風景写真界の巨匠である白川さんの作風は1960年に出版した写真集『白い山』(朋文堂)で地歩を築いたころから屹立していた。

 複写用の超微粒子フィルムと赤フィルターを使用し、黒光りする八甲田山のスノーモンスターと雪山を対比させた初期の作品について、「日本の風景写真の主流を占めていたサロン調から吹っ切れていましたね」と、「山と高原」誌の大森久雄元編集長は語っている。この評価はいまもまったく古びていない。

 私が初めて白川さんの作品を目にしたのはもう40年以上前のことだが、それまで見たことないスケールの大きさに衝撃を受けた。

湿原曙光(撮影:白川義員)
湿原曙光(撮影:白川義員)

これが日本だと世界に誇れる鮮烈荘厳で壮麗絢爛な風景写真

「永遠の日本」を本格的に撮り始めたのは「世界百名瀑」の取材を終えた2007年。その構想は50年ちかく前、ヨーロッパアルプスを撮影していたころにさかのぼる。白川さんはこう語る。

「やはり、日本には外国にはない、繊細微妙な風景があるんですよ。そのよさをまとめて、日本はすばらしい国なんだ、ということを外国に知らしめる。そういう目的があったんです」

 インタビューではおだやかな語り口だったが、図録のあとがきにその背景を、強い調子で書いている。

<自分の祖国日本でこの(アルプスの)ような鮮烈荘厳で壮麗絢爛な風景写真を撮って、これが日本だと世界に誇れる写真集を作れないかと考えるようになった。それは当時いたる所で許しがたい人種差別に遭って、まるで猿同然に扱われたからである。プロ写真家になって前人未踏の仕事をかたくなに目指したのは、この人種差別に対する反抗と復讐である>(カッコ内は筆者)

 復讐とは穏やかではないが、当時、「日本人は人まねばかりする」と非難され、激しい差別を受けたという。

 この屈辱的な体験がその後の白川さんの生き方に大きな影響を与え、強烈な色彩の風景写真を生み出す原動力となってきた。

「永遠の日本」で目を引くのは、雪山や海辺の風景は別として、紅葉の時期に撮影した作品。白川さんによると、日本の紅葉は固有のものであり、ずばぬけて壮大で華麗な風景という。

「外国じゃ日本みたいな紅葉はどこにもありません。日本の紅葉はいろいろな色がある。鮮やかな赤、黄色、オレンジ、常緑樹の緑。それらが混ざり合っている。日本に似た紅葉があるのはカナダの一部だけですよ」

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「つまらない山岳写真」への反論