「バッドランド」なんて、そんなくだらないところには行きたくない
もう一つの作品「天地創造」はかなり前から世界各地で撮り進めてきたもので、総仕上げとして17年から翌年にかけてアメリカや中国などの風景を新たに写したほか、以前撮影した作品の一部を撮り直した。
アメリカの作品のベースとなったのは40年ほど前、建国200年事業で合衆国政府から依頼された仕事だった。
「このときはアメリカの省庁が全面支援してくれましてね。『ここがすごい』という場所を指定してきましたので、それを徹底的に撮ったんです」
しかし、バッドランド国立公園(サウスダコタ州)だけはいくら撮影を勧められても撮らなかったという。
「言葉がよくないでしょう。『バッドランド』なんて。そんなくだらないところ、俺は行きたくないって、行かなかったんです。でも今回、どんなところか、ちょっとのぞいてみるかと、行ったら、すごくよかった(笑)。ぼくは言葉とか、そういう印象でもって決めてしまう。だから困っちゃうんですよ。ははは」
ユタ州にあるキャニオンランズ国立公園では以前写した作品の大半を撮り直した。撮影はすべてヘリコプターからの空撮。というのも、公園内は車で行ける場所は限られているうえ、「展望台からの風景はぼくの目から見たらぜんぜんつまらないんですよ」。
撮影のハイライトの一つが「ザ・ループ」。コロラド川が8の字を描くように2回、深く蛇行しているポイントで、40年前もトライしたが、「ここを撮るのはほんとうに大変というか、撮りようがなかったんです」。
深い峡谷の底を流れる川の風景のため、思い描いたカメラアングルからから少しでもズレてしまうと撮影はだいなしになってしまう。
「もっと右、右だ。行きすぎ。左だ、と、パイロットに非常に微妙な飛び方を指示しないと8の字に見えるように撮れないんです」
結局、前回はうまくいかず、あきらめた。
「で、今回、とにかくもう一回トライしようと。それで、なんとか撮れたんです。でも、何十回飛んでもいい写真が撮れなかったというところは多いですよ」
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「天地創造」には数多くの空撮作品が含まれているが、圧巻はやはり、ヒマラヤとカラコルムの作品だろう。マナスル、ダウラギリ、K2など8000メートル峰の姿は非常に迫力がある。
大変だったのは地政学上、非常に微妙な位置にある山の撮影の許可取りで、K2を撮る際は、当時、日本・パキスタン友好議員連盟会長だった羽田孜議員を通じて、ムシャラフ大統領の協力を取りつけた。
日本人が初登頂したマナスルの作品は、巨大な山体が日の出の太陽を受けてオレンジ色に染まり、影の部分は深い青色に沈んでいる。この唯一無二の色合いは、白川さんの作品を強く印象づける。
しかし、実を言うと、私がこの鮮烈な色合いを写真表現として受け入れられるまでにはかなり時間がかかった。