Lipsett Ave, Staten Island, NY(撮影:新井隆弘)
<br />
Lipsett Ave, Staten Island, NY(撮影:新井隆弘)

「ニューカラー」が新しいのは「色」ではなく、「視点」

 大学卒業後は「ニューカラー」にも興味を持ち、中判カメラのハッセルブラッドや大型の8×10カメラと、カラーネガフィルムを組み合わせて撮影し、プリントも自分で行った。

 しかし、あるとき、その作業をぷっつりとやめ、デジタルカメラを使うようになった。その理由をこう説明する。

「技法の模倣じゃないでしょ、という思いがありました。カラーネガを焼いて、色をちょっとグリーンかぶり、マゼンタかぶりさせるというのがニューカラーみたいな風潮もあったと思うんです。でも、基本的に色は崩していない。意図的に色をいじっているようには思えないんですよ」

 そう言って、ニューカラーの旗手、ジョエル・マイロウィッツの写真集『Cape Light』を取り出し、ページをめくる。

「当時のニューカラーの作品は『色』というよりも、『モノを見る視線』が新しいんじゃないのか。そういう思いはありましたし、それはいまでも変わりません。だったら、銀塩ではなく、デジタルカメラでいいのでは、と」

 今回の作品もキヤノンのデジタルカメラEOS 5Ds Rと、ツァイスのレンズOtus 1.4/28 ZEを組み合わせ、写している。

「パンフォーカスで、画面の隅々までシャープに見せたいんです。絞りはf8で、シャッター速度だけを変えて撮影しています」

Plumb 1st St, Brooklyn, NY(撮影:新井隆弘)
Plumb 1st St, Brooklyn, NY(撮影:新井隆弘)

撮影が終わり、帰国すると、あの墓のことが思い浮かんだ

 話をメイプルソープに戻そう。新井さんが彼の墓をたずねたきっかけは20年以上前、『トランスパランス The day book 2 1993-1995』(リトルモア、1995年)という本を手にしたことだった。著者で写真評論家の後藤繁雄さんと写真家の上田義彦さんが取材でメイプルソープの墓を訪ねたことを知った。

「ああ、お墓があるんだ、いつか行ってみたいな、と思ったんです。でも、そのころのニューヨークは治安はよくないし、郊外でしたので……16年にようやく行けました」

 ニューヨークの地下鉄の終点からさらに足をのばしたところ、クイーンズ地区の外れにメイプルソープの墓はあった。芝生の広がるごくふつうの墓地に、横長の御影石で作られた墓標が置かれていた。

「もっと立派なものを想像していたんですけれど、見たら、こんなもんなんだ、と。ほかの墓と変わらない。あっけなかったですね」

 写真展案内にはこう書かれている。

<振り返るとこの作品の起源は、メイプルソープの墓を訪ねたときであったと感じている>

 作品を写しているときは、メイプルソープのことは頭の中にまったくなかった。しかし、すべての撮影が終わり、帰国すると、あの墓のことが思い浮かんだ。

「目的の地点を探して、そこにたどり着いて、写真を撮って、とぼとぼと戻ってくる。その感覚がとても似ていたんです」

 今回の展示では撮影場所を示した地図と通りの名前を記したボードを用意した。そこには「作品を見ていただいた方に、ここを訪ねてほしい」という思いがある。

「実際にこの場所に立って、ああ、こんなところなんだ、と体験をしてほしいんです」

(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】新井隆弘写真展「END」
エプサイトギャラリー(東京・丸の内)
12月11日~12月24日

Yeomalt Ave, Staten Island, NY(撮影:新井隆弘)
Yeomalt Ave, Staten Island, NY(撮影:新井隆弘)
暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも