彼の活動はドラマ化され、現在放送中だ。テレビ東京プロデューサーの稲田秀樹(56)は言う。

「人間関係って、面と向かってきちんと気持ちを伝え合い、深くなることが良しとされる固定観念があるが、それとは異なるものが彼と依頼者との間にはある。密にならないからこそ、心地よい関係が求められている。(ドラマ化は)現代を描くことになるのではと思い、企画を進めました」

 SNSで頻繁に連絡を取り合い、「既読」にならないと不安になる。「既読」になったのに返信が来ないと、また不安になる。途方もない毎日に疲れた人たちが、新しい関係性を求めている。

 妻帯者で幼子をかかえる身である彼に対し、「定職につけ」など、冷たい声を浴びせる人もいる。彼の妻で、イラストレーターの森本愛逢(あお)(38)とは07年、「ネット大喜利」で知り合い、漫画やCDの貸し借りを経て親しくなった。愛逢は言う。

「好きなことをやればいい。彼と話していると面白いんです。誤解を受けますが真面目で正直な人。世に出たほうが良いと思っていたので、やっとハマるものが見つかって良かったと思っています。分かってもらえたら良いけど、分からない人は仕方ないですね」

 どれだけ多くの人たちが、彼の「存在」に癒されただろう。彼への最後の取材はメールになった。

「もろもろありがとうございます。承知しました。外出を伴う依頼を控えている件について、再び依頼を受け始めたときに何かしら新鮮みをもって臨めるかもしれない。そういうポジティブな効果も感じています。感染リスクの低い状況と確信できる依頼はそろそろ再開すると思います。休業要請の対象ではなかったので」

(文中敬称略)
     
■れんたるなんもしないひと
1983年 名古屋市生まれ。生まれてすぐに兵庫県川西市に転居。父、母、兄、姉の5人家族。大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻修了。卒業後、数学の教材執筆や編集の仕事に従事するも、3年で退職。上京後、コピーライター養成学校に行き、広告業界を目指すも方向性の違いから挫折。この間に妻・森本愛逢と結婚。編集プロダクション勤務を経て、独立。フリーランスのライターに。いずれからも撤退し、「働くことが向いていない」ことが判明した。長男が誕生。
2018年 「レンタルなんもしない人」のサービスをツイッターで開始。ツイートによるサービス開始宣言を、私小説『夫のちんぽが入らない』で知られる知人のブロガー主婦・こだまがリツイート。これにより、ツイートが飛躍的に拡散する。最初の依頼は開始2日目、「風船をもって」という依頼。「最初の依頼でかわいい風船をもらった。これ持って帰宅ラッシュの電車に乗ってわりと嫌がられて面白かった」。依頼者からは「なんて呼んだらいいですか?」と聞かれ、「なんでしょうね……」という流れの末、「レンタルさん」と呼ばれた。2人目は、美味しいラーメンを食べることに同行。
 19年 単行本『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(晶文社)、『<レンタルなんもしない人>というサービスをはじめます。スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと』(河出書房新社)、『レンタルなんもしない人』(第1巻、講談社・モーニングKC、企画原案。作画・プクプク)を刊行。生活費や養育費をもっと家庭に入れろ、という声が多いことをきっかけに、利用料1万円を設定し有料化。
 20年 単行本『レンタルなんもしない人のもっとなんもしなかった話』(晶文社)を刊行。テレビ東京系で連続ドラマ「ドラマホリック! レンタルなんもしない人」スタート。彼の役を務めているのは男性アイドルグループ・NEWSの増田貴久。

■加賀直樹
1974年、東京生まれの北海道育ち。元・朝日新聞記者。「AERA」「好書好日」「ジェイコム マガジン」「本の窓」などの媒体で執筆中。本欄では阿部海太郎、ヨシタケシンスケ、清水ミチコ、朱野帰子を執筆。

AERA 2020年5月4-11日号

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