■ただ見ている観客の気持ち、好きなことをやればいい

 ちなみに、筆者もレンタル依頼を打診したことがあるのだが、彼からは即座に断られた。

「取材目的となってしまうと、僕を本当に利用したいという純粋な気持ちではない、というか。言うてみたら『ヤラセ』になってしまいませんか」

 また、これまでの活動で印象に残る依頼は何か聞いた時も、彼からはきっぱり答えを拒否された。

「依頼を自分がランクづけすることは厭です。依頼者からすれば気持ち良いものではありません」

 晶文社の編集者・江坂祐輔(42)は「謎の活動をしているな」と彼に興味を持ち、活動当初に直接コンタクトを取った。彼のツイートの束をまとめ2冊の書籍を刊行した。江坂はこう評する。

「なんもしないことで場が成立し、交差点としての機能が果たされている。関係性のある所では打ち明けられない悩みを、依頼者はアドバイスでなく、ただ聞いてほしいのでは。それを140字で集約し、まとめ上げる文才を強く感じています」

 19年にはNHK「ドキュメント72時間」にも取り上げられた。番組は通常、場所を固定して3日間、そこで起きた事象を定点観測で追いかけるが、初の試みとして「人」にフォーカスを当てた。ディレクターの田嶋千尋(30)は、彼が
「目の前で起きていることを、ただ見ている観客の気持ちだ」と話していたことが忘れられない。

「『人生で脚光を浴びることは、そうあることではない、でも僕の前では皆、パフォーマーになれる』。普段、日の当たらない多くの人を照らしていくという番組の趣旨とも共通点を感じました」

 田嶋自身も日々の仕事のなかで時折、言語化できない疲れや澱(おり)のような何かを覚えることがある。無自覚な、言いようのない、何か。

「依頼者は、彼と『何でもない時間』を過ごすと、そんな言いようのない、求めていた何かの正体に気付くような気がしました」

 この回は視聴者投票2位で再放送までされた。

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