■ネット大喜利で常に上位、会社勤めは向いていない

 東京に居を移し、コピーライター養成学校に入学。広告の職業を目指したのは、趣味で、「ネット大喜利」に親しんでいたのがきっかけだった。

「こんな○○はイヤだ」「こんなとき△△ならどうする」。そんなお題が出て、面白い答えを出すのがネット大喜利。数百人が「ボケ」を投稿し、投票で順位が出るサイトだった。

「彼はいつも上位で、すぐ名前を覚えました」

 そう語るのはブロガーで主婦の、こだま。私小説『夫のちんぽが入らない』が人気を博している彼女も彼と共に大喜利の投稿に勤しんだ。こだまは言う。

「短い文章で、視点が人と違っていました。数百人いても発想が被らない。どこか冷めているんだけど、ちゃんと面白い。そのスタイルは、依頼を140文字に無駄なく収め、惹き付ける(彼の)現在のツイートにも表れていると思います」

 こだま自身、学級崩壊で教師を辞めてから他人と接する自信を失い、引きこもっていた。そんな時に、年齢も性別も職業も分からない人たちが集まり、黙々と投稿するサイトにハマった。

「ちょうどいい距離感や上を目指す面白さ。引きこもりだったのに、まったく孤独じゃなかった。自分と同じような種類の人が、ここにはたくさんいるように思えたんです」(こだま)

 ただ、彼女が彼に対して抱いていた印象は「怖い人」だったという。大喜利でスベっているボケに「つまらないからやめろ」とコメントしまくっていた記憶があり、「この人の前で面白くないことを言ったらとんでもないことになる、という恐れがありました」。だから、後に初めて実際に会った時、彼の物静かな雰囲気に驚いた。

 コピーライター講座での成績はトップだった。この世界ならやっていけると確信したが、仕事を受けてみると、体育会系のノリを求められ、交渉術も要求される。「向いていない」。すぐに辞めた。下請けで教材をつくる編集プロダクションに再就職した。担当する教材をいっぱい抱え、仕事に優先順位をつけられた。「これは80点で良いから」「これは60点で」。馴染めない。約1年で退職。「会社勤めは一生やらんとこう」。固く心に決めた。

暮らしとモノ班 for promotion
【先行セール開催中・目玉商品42選】Amazon「プライム感謝祭」間近!お得なキャンペーンや目玉商品を詳しく紹介
次のページ