■機能性で価値は決まらない、「面白い船が集まる港」に

 人間には「機能性」と「存在性」がある。「機能性」とはつまり「何ができるか」。足が速い。背が高い。カネが稼げる。一方で「存在性」は、何ができようができまいが、その人はその人だ、ということ。「人材」「生産性」などという厭な言葉が跋扈する今、人間はそれ以前に、存在そのものに価値があるのではないか。彼がニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』に出会ったのもその頃だった。何かをすべき、という状態を捨てて、内側から湧いた欲望に忠実になろう。

 そうして彼は「レンタルさん」になった。敢えて「なんもしない」という言い方を選ぶことで、その「機能性」を意識的に取り払う。その時、彼に価値がないのか、彼なりに問うてみたのだった。

 ある日のツイッター。

 ――「友達とだと会話が発生してしまい90分めいっぱい使えないから、何も喋らなくていい人に付き合ってもらいたい」という依頼にて、焼き肉食べ放題に同行。(中略)テレビで見るやつに匹敵するくらい食べるひとで、いく店いく店で顔と名前を覚えられるんだそうです。(中略)依頼者はイヤホンしてスマホゲームをしながら黙々と食べていた。焼き肉の手際がめちゃくちゃ良くて、氷も駆使して網交換によるタイムロスがほとんど発生しないようにしてたっぽい。

 また、ある日のツイッター。

 ――「以前通ってた学校までの通学路を同行し、その頃の話を聞いてほしい」という依頼。依頼者いわく「トラウマの供養」とのこと。ある色の服を着てるとき特に嫌がらせをうけ、その色をずっと着れずにいたそうだが、この日はあえてその色を着ていた。やや気が晴れたようで今後もその色を着れそうと話していた。

 最初こそ、軽妙な依頼が多かったが、ときに深刻な依頼も増えてきた。元殺人犯や、カルト宗教関係者から「話を聞いてほしい」との依頼も。タレント・ふかわりょうは、AbemaTVで彼のことを「面白い船が集まる港」と紹介した。いっぽうネット上では「新手のヒモ」と中傷されることがあり、炎上も起こる。ツイッターを見守りながら、筆者は彼のメンタル面を心配していた。それを告げると、彼は飄々とこう答えた。

「これは批判されるところでもあるんですけど。共感能力が低すぎて、『人間として終わっている』と言われることがあるんです。たとえば『昔、人を殺してしまった』という話を聞いて、レンタルの時間の終わった帰り道、『やった、すごい話聞けた!』って。ツイッターに早く書きたくなる」
 

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