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何もせず、ただいるだけなのに次々と依頼がくる。彼にしてほしいことも、特に、ない。モヤモヤすることを吐き出したいだけ。心が揺れるとき隣にいてほしいだけ。一人ひとりが偽りない自分の気持ちを解放できる場として、彼の「存在」はある。何ができようができまいが、人は生きているだけで価値があることを実証している。
「『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます」
2018年6月3日、こんな1通のツイートに、たちまち全国から約4万を超える「いいね」が付いた。この日を境に、発信者のもとには連日、じつに多様な依頼が舞い込むようになった。
彼の名は「レンタルなんもしない人」(本名・森本祥司<もりもと・しょうじ>、36)。依頼はこんな具合だ。
「引っ越しを見送ってほしい。友達だとしんみりしすぎてしまうので」
「離婚届の提出に同行してほしい」
「一緒にクリームソーダを飲んでほしい」
津々浦々から届く、こうした依頼を、ツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)で受け取るや、彼はそれに応じ、この時に起こったことや抱いた感想について、許可を得た上で後日ツイート。
彼は、依頼者を前に、びっくりするほど「なんもしない」で帰ってくる。厳密に言えば「クリームソーダを一緒に飲む」という行為をしているのかも知れないが、まあ、そうした細かいことは言及しない。とにかく「なんもしない」のだ。
そんな彼の活動の始終を見守るフォロワーは今、約26万2千人(4月20日現在)を数える。ツイッターの世界で彼の名を知らぬ人はいない。
緊急事態宣言が言い渡される直前の、ある朝。
東京・多摩地区にある国公立大学の正門前に、トレードマークの帽子にパーカー姿で彼は立っていた。彼を呼んだ今回の依頼者は、福岡県出身の予備校生の男性(19)。この日の約3カ月前、男性はDMで彼にこんな依頼文を送っていた。
「3月10日は空いていますか。用件は、大学の合格発表を一緒に見てほしいことです。その後、どこかでお茶でも少しできればと思っています」
翌日、彼から一言だけ、返信が届く。
「OKです」