フリーランスの執筆業として、問題集の問題をつくり、解説文を書く日々。そんな折、彼が出会ったのは、東京・西国分寺でカフェ「クルミドコーヒー」を営む影山知明(46)だ。店では「朝モヤ」という会を主宰している。いわゆる「哲学カフェ」と称される空間。自分が生きてきて感じる、いろんな「モヤモヤ」を打ち明ける。他人の「モヤモヤ」を聞くこともできる。

 ある日の会で、「人生とは山を登るような過程だ」という話題が出た。人生は苦労の連続だが、いつかそれは報われる、と。影山は言う。

「その時、彼は、『必ずしも自分はそう思わない』と言いました。『自分は鳥のように生きたい』と。山を一歩ずつ登るというより、見晴らしの良い所を自由に自在に飛び回れる存在でいたい。彼のその言葉はよく覚えています」

 また、彼のこんな問題提起も影山は覚えている。

「主体的でなければいけないのでしょうか」

「主体的であることは良いことなのでしょうか」

 社会的には「善」と見なされること、それははたして本当にそうなのか。いっぽうで彼は同時期に、影山に宛てて、こんな文章も残している。

「社会を良くしたいと思っています。ただ、今の自分がこれを口にすると、やや虚しい響きが伴うのを感じます。何が足りないのか、自分の思いつく範囲では少しずつ手足を動かしているものの漠然としたにおいを伴った取り組みに終始しています」

 影山は彼についてこう評す。

「客観的な指標や常識に縛られることへの抵抗感が一貫して彼のなかにある気がします。『こういうものだ』『普通こうだ』ということに対し、『ちょっと待ってよ』『それだけではないでしょ』と」
 

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