写真家・岡田敦さんの作品展「Light at the Edge of the World」が9月25日から東京・銀座のLUMIX GINZA TOKYOで開催される。岡田さんに話を聞いた。
「馬?」。それが今回の岡田さんの写真展を知ったときの正直な気持ちだった。10年ちかくも馬を撮り続けていることは知らなかったし、なぜ、馬なのか、疑問が湧いた。
インタビューの際、東京・銀座にあるパナソニック「LUMIXプロサービス」を訪ね、写真展のプリントチェックに同席させていただいた。岡田さんがパナソニックのカメラを使い始めたのは昨年のこと。ほかのメーカーの機種と比べ、落ち着いた色の再現が気に入ったという。
その言葉を裏づけるように、見るからにプリントが難しそうな微妙なトーンの作品が現れた。濃い霧が漂う湿原。朽ちた針葉樹が折り重なる暗い森。強風によって削られた雪面。雲の向こうに浮かぶ月と、そのまわりに広がる虹のような薄い色。
巨大なロールの印画紙が広げられ、白い馬の姿があらわになると息を飲んだ。主役の登場、まさにそんな感じだった。童話に出てくるような長いたてがみ。やさしい目と表情。こんな場所に生きる馬の不思議さを感じた。
あの島で何が起こっているんだろう
写真展案内を手にすると、「北海道根室半島沖に浮かぶ無人島・ユルリ島に生息する野生化した馬の写真を中心に、岡田がこの1年間で撮りおろした新作を展示いたします」とある。
グーグルマップで調べてみると、ユルリ島が思いのほか根室に近いことに驚いた。絶海の孤島、地の果てのような島を思い描いていたのだ。
「対岸から見えるんです。3キロくらい。それが絶妙な距離感というか。しかも人が立ち入れそうで、入れない。霧がかかると見えなくて、『あの島で何が起こっているんだろう』と、すごく想像をかき立てられる。ベールに包まれたような島が北海道の端っこに残っていた」と、岡田さんは言う。
島の周囲は約8キロ。断崖に囲まれているが、その上はまっ平で、笹が生え、灯台がぽつんと建っている。「そこに馬だけが暮している」。
北海道で生まれ育った岡田さんは以前からこの島のことを「なんとなく知ってはいたんです。けれど、住んでいたときは気にもしていなかった」。
ユルリ島では明治時代からコンブ漁が営まれてきた。昭和になると漁師が島に馬を持ち込み、採取したコンブを陸揚げする労力として使った。しかし、1971年にすべての漁師が島を去ると、馬だけが残された。連れて帰っても放牧する場所がなく、食肉用として手放すのも忍び難かった、というのが理由らしい。