■料亭の味を届けたい
5月中旬、「西京焼き」を看板に、異色の料理人がフードトラックデビューした。「金田中(かねたなか)」など高級料亭や割烹で経験を積んだ遠山周作さん(33)だ。
「店勤務のときは、政治家や外資系金融の方々がお客さんに多かったです。懐石料理の技術を使い、もっと広くいろいろな人に食べてもらいたい思いがありました」(遠山さん)
7月に取材した日は、御殿山(東京都品川区)の初出店日。高級レジデンスとオフィス、ホテルから成る複合エリアだ。初客は開店時間の前にさっそくついた。フードトラックの出店がわかるスマホアプリ「SHOP STOP」を見て来たという。
昼前に来店した女性は、在宅勤務が4カ月になると話す。
「家の中にずっといると煮詰まります。ランチを買いに外に出るのが、いい気分転換です」
一番人気の「銀だらと鶏ももの西京焼弁当」を手に取ると、メインのおかずに加え、筑前煮、ごぼうとひじきのサラダ、かぼちゃの煮付け、卵焼きなど副菜がぎっしり。看板の銀だらの西京焼きを口にすると、しっとり、まろやかな味わいが口に広がる。魚はトラックの中で焼いているが、どうするとこんなふうに仕上がるのか。
「西京味噌は自分で調味料を配合しています。塩分が多いと、魚の水分が出すぎ、ぱさついてしまうので加減をしています」(遠山さん)
昼過ぎには行列ができ、順調な滑り出しだ。前日のタワーマンションも手応えがあり、遠山さんは胸をなでおろした。
前出のシェアダインには、出張パティシエも登場。「家で楽しむアフタヌーン・ティー」を提案している。フードトラックでは燻製バーのシェフが、燻製カレーでデビュー予定だ。豊洲市場の仲卸も、フードトラックの営業場所を使い、鮮魚や魚の弁当の販売をすでに開始。魚のおいしい食べ方を伝え、住民の心をつかんでいる。「新・食住近接」は、新たな食の可能性と楽しみをまだまだ広げそうだ。(編集部・石田かおる)
※AERA 2020年8月10日-17日合併号