
そう語るリュウさんは、実はレストランに勤務するシェフだ。新型コロナの休業要請で多くの飲食店が厳しい状況に追い込まれた。リュウさんの店も例外でなく、4月末、かねて興味のあった出張シェフに登録した。
シェアダイン共同代表の井出有希さんは言う。
「3月以降、飲食店勤務のシェフの登録が急増しました。いまだ飲食店はフル稼働の状況ではなく、登録シェフは継続して働いています。調理は3時間が基本。価格はシェフが設定できるため、人気シェフになると効率的に収入も得られる。店だけに頼らない働き方の選択肢として、前向きにとらえているシェフが少なくないようです」

■新「食住近接」の潮流
新型コロナをきっかけに飲食業が大きく変わった。料理のテイクアウトやデリバリーにとどまらず、料理人やレストランが家に向かう「新・食住近接」の潮流が生まれている。
東京・品川のピザ専門店「ピッツェリア バッカ ムニカ」はピザならぬ、シェフと食材がフードトラックに乗り、自宅までやってくる。車内の石窯で焼くピザはアツアツで、チーズもトローリ。店主の硲由考(はざまゆたか)さん(35)は言う。
「4月に店の営業をテイクアウトとデリバリーだけにしたところ、売り上げは半減。イベント出店用のフードトラックを使い、始めました。好評につき、店内での飲食再開後も継続しています。注文の条件は、予約制で1万円以上。友だちや近所でまとめて注文するケースが多いです」


調理設備をのせたフードトラックは、まさに“動くレストラン”。これまで主に昼のオフィス街でよく見かけたが、外出自粛のコロナ禍ではタワーマンションなどにも現れるようになった。フードトラックと空きスペースのマッチングを手がける、Mellow(メロウ)広報の小関真裕美さんは言う。
「4月から住宅地での営業を始めると、1カ月で1500件以上の問い合わせが入りました。晴海や有明など湾岸地区のタワーマンションをはじめ営業場所を拡大しています」
在宅勤務の普及で「3食の食事作りが負担」「家の料理ばかりではマンネリになる」などのニーズが住宅地に生まれた。一方、料理人にとっても固定費の少ないフードトラックは魅力だ。
「フードトラックは、初期投資が約500万円と、店舗の3分の1程度。コロナ以降、説明会には3倍の人が集まるようになりました。7割が店舗を持つ方々です」(小関さん)