二丁目で店を出して10年。店や長村が仕掛けるイベントに出入りする人のコミュニティー、それにこどまっぷのメンバーたち、みんなが「かぞくのようなもの」に発展していると実感している。

「家族とか故郷とか、確かなつながりがない私にとり、二丁目のコミュニティーこそが心の故郷だなと。結局、誰かの居場所をつくることが、私の故郷をつくるのといっしょだとわかってきて。故郷がないなら、自分でつくる!というのが、私が抱える一生のテーマなんですよね」

 子のいる人も、いない人も。同性同士で子育てしている人も、その子どもも。あるいは年配の人も。あらゆるボーダーを取り払った人びとが訪れる場を作り続けるんだと、長村は目を細めて言う。

 決して「同じ」や「普通」を求めない。その目は時代の符号としての“ダイバーシティー”じゃなく、もっと体温のある“多様性”を見据えている。

(文中敬称略)
 
■ながむら・さとこ
1983年 東京都足立区生まれ。金属加工の町工場を営む3代目の父は、若くして家業を継ぎ、「会社は常に傾いていた」。「機能不全家族」の一因は、お嬢様育ちの父方の祖母にもある。完璧な専業主婦を演じていた母は、長村にとっては祖母にあたる、姑に苦労。「祖母は浪費家で100万円の壺を突然買ってきちゃうような人」と長村。父も仕事の責任を負い毒親からも逃げ、不在がちだった。
2002年 私立の小中高一貫校を卒業後、女子美術大学短期大学部に進学。短大卒業後は、美術画廊や編集プロダクションに会社員として勤務するも、長続きしなかった。以後、ホステスから道路工事まで様々なアルバイトも経験。
  09年 新宿二丁目に「どろぶね」を出店。その後も、ブリトー屋(16年)、足湯カフェ(18年)、大阪のショットバー(19年)と、次々に出店。
  10年 LGBTで子どもを持ちたい人同士の交流会を始める。
  14年 交流会を発展させ、任意団体「LGBTsでも子どもがいる未来を」設立。LGBTQの家族のためのSNSサービス「anysea」も開設。
  15年 茂田まみ子と出会う。結婚式を挙げ、たくさんの参列者を呼んだのは、「完全に親への『プレゼン』。相手を認めてほしいというよりは、『将来、私が子を産んでも、仲間に囲まれながらちゃんとやっていけるよ』とアピールしたんです」。同年、精子提供者を見つけ、妊活を開始。
  16年 「一番子どもに会わせたかった」父ががんで他界。
  17年 香港で「Asia-Pacific Rainbow Families Forum」に参加。ピンクドット沖縄にパネリストとして登壇。沖縄で交流会を開催。
  18年 非営利型一般社団法人として「こどまっぷ」設立。米国で開催された全米アジア太平洋諸島系クィア連盟NQAPIAのカンファレンスに、プレゼンターとして参加。
  19年 クラウドファンディングを成功させ、冊子「Love makes a family」発行。さっぽろレインボープライドに初出展。来春、TOKYO RAINBOW PRIDE PARADEにブースやフロートを出展する予定。

■古川雅子 
ノンフィクションライター。上智大学文学部卒。専門は、医療・介護、科学と社会、生命倫理、コミュニティーなど。共著に『きょうだいリスク』(朝日新書)がある。本欄では、「詩人・岩崎航」ほか、多数執筆。

AERA 2019年11月25日号 

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