上田の両親(左の2人)と妻(右)と息子と一緒に、映画「スペシャルアクターズ」に登場する「ムッスー」のポーズを(撮影/今村拓馬)
上田の両親(左の2人)と妻(右)と息子と一緒に、映画「スペシャルアクターズ」に登場する「ムッスー」のポーズを(撮影/今村拓馬)
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 低予算のインディーズ映画「カメラを止めるな!」が、観客動員数220万人、日本アカデミー賞8部門優秀賞とは、誰が予想したか。爆発的なヒット作品を監督した上田の次の単独監督作品「スペシャルアクターズ」が、10月18日に公開される。プレッシャーがないわけがない。でも、カメ止め旋風を超える勢いで、上田は毎日仲間を巻き込み、巻き込まれ、突き進んでいく。

 次の言葉が「えーと」から10秒出てこない。
 
 視線が宙を泳ぐ。涙、なのか? テレビなら放送事故になる沈黙に、客席で固唾(かたず)をのむ。
 
 8月末、東京・五反田にあるイマジカで上映された映画「スペシャルアクターズ」(スペアク)の初号試写会でのことだ。映画終了後、いつもの笑顔と軽快なノリで始まった監督、上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)(35)の挨拶で、マイクを握る手が震えるなんて、会場の誰も予想できなかっただろう。
 
 でも、今日まで上田が晒されてきたプレッシャーの強烈さを知れば、この沈黙の10秒間にこめられた意味が痛いほど分かるはず。
 
 なにしろ上田の前作「カメラを止めるな!」(カメ止め)は予算300万円、有名俳優ゼロのインディーズ映画なのに、たった2館からなんと353館にまで拡大上映し、観客動員数は220万人を超えた。そのうえ日本アカデミー賞最優秀編集賞など70もの映画賞をかっさらったという、世紀の大化け映画なのだ。
 
 それだけに業界や映画ファンたちは、カメ止めの次の単独監督作スペアクを、「あの才能は本物?」「これぞ勝負作」と熱く注目している。
 
 スペアクの主人公は、圧がかかると気絶する気弱な俳優。主人公は弟から頼まれ、依頼者の困りごとを芝居で助ける俳優チーム「スペシャルアクターズ」に入り、古い旅館をカルト集団から守るために闘う。いわばスリルと笑いに満ちた「役者たちのミッション:インポッシブル」なのだが、上田はこの作品を「自分の気絶しそうなプレッシャーを脚本に落としこんで」作り上げたと言う。確かに、舞台挨拶で言葉に詰まっている上田自身の緊張は、スクリーンで震えていた主人公の緊張にシンクロしすぎ、と思った次の瞬間、上田がバンッと両手を叩いた。

「みんなで日本映画界をひっくり返しましょう!」

 カメ止めの次、という呪文を叩き潰すかのような強い声。果たして上田はプレッシャー地獄から、どう脱出したのか?

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