■巻き込むことが楽しい、俯いてる人がいたら負け
書けない苦しみを救ったのは妻と鈴木とキャスト、そして過去のピンチだった。煮詰まった上田から電話を受けた鈴木は、夜でも上田と会い、何時間でも話を聞いた。キャストたちと向き合うため全員に出してもらったアイデアの中から、「カルト集団」というヒントが生まれ、過去のネットビジネスの詐欺体験をフル活用して、自分のプレッシャーを盛り込んだ「スペシャルアクターズ」が誕生。スペアクの一番リアルな面白さは、上田自身が成分なのだ。
「有名女優を起用する選択肢もあったけど、スペアクでは自分が純粋に好き、と思う無名役者のドキュメンタリー的な演技を見たかった。カメ止めで無名役者を使ってもシネコンにかけられる前例を作ったから、スペアクでその流れを定着させたいと思った」
スペアクの主演、大澤数人(35)は10年間俳優として活動しているが、現場の経験は過去3回だけ。
「監督にみんな横一列と言われてたから、途中まで自分が主役だと思ってなかった。NGで監督に呼ばれ『主役なんだからしっかりしてや』と言われて、初めてぐわーっと緊張に襲われて」と話すその雰囲気は、映画のまま! 大澤を始め、キャストはみんな、雰囲気を生かした役になっている。
走り続ける全身全霊監督の上田に、今、凄い勢いで巻き込まれ中なのは、スペアクのキャストたち。完成披露試写では800人の観客全員とハイタッチをして挨拶をし、SNSでの宣伝はもちろん、新宿ピカデリーでは、500枚のチケットを手売りするチャレンジまで参加した。上田は朝11時から会場に立ち、入れ代わり立ち代わりキャストが駆け付けて、チケット購入者にサインをしていく。夜10時、閉館ギリギリで目標の500枚を達成。全員で上田を胴上げして祝った。青春! やっぱり「一生青春」は変わらない。
この巻き込み力こそ、上田の人生を切り開いてきた最終兵器なのだ。他の誰よりも上田に巻き込まれ続けてきた鈴木はこう言う。
「結局、一番動くのは上田だし、皆が知らない所に連れて行ってくれるから人望がある。上田と友達じゃなかったら、僕も今までのことすべてやってないし、今の自分にはなってなかった」
カメ止めから巻き込まれ、スペアクの完成披露試写や主演作「かぞくあわせ」のイベントでも上田と登壇したしゅはまはるみも、「映画はみんなのもので、垣根を越えて話し合えると上田さんに教えられた。何でも相談してる」。