2020年3月8日、東海道新幹線から700系が営業運転を終え、引退する。くちばしに似た先頭形状から「カモノハシ」とも呼ばれた衝撃的なフォルムで登場してから、21年が経過するとはにわかに信じ難い。その姿がもう見られなくなる引退を惜しみつつ、700系電車の功績を貴重な写真とともに振り返ってみたい。
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■驚くほど早かった「2代目のぞみ」の登場
東海道新幹線に「ひかり」より速い「のぞみ」が登場したのは1992年3月。最高速度が時速220キロから一気に50キロも速い270キロになるということで、新形式の300系が投入されたが、そこは営業運転としては未知の世界だった。
300系は、見た目からして「空気抵抗をうまく後ろに流してくれそう」な先頭形状であり、実際Cd値(空気抵抗係数)は0.20と、100系より20%も向上していたのだが、この形状が最後尾においては大きな問題となった。ノーズの先端が極端に低くてレール面に近いことが空気の流れの乱れを生じさせ、尻振りと呼ばれる不快な揺れを生み、乗り心地が著しく損なわれたのである。
問題はそれだけではない。トンネルに突入した際に、反対側でドンという大きな音が発生するトンネル微気圧波も大きな課題だった。最高速度こそ一気に上昇したものの、カーブでの減速や勾配に対する弱さなど、300系が抱える課題は結構大きかったのだ。
そこまで見越していたかは分からないが、その未知の世界での技術進歩が必要であると考えたJR東海は、300系の先行試作車の落成からわずか4カ月後の1990年7月に、「300X」という試験車両の開発に取り掛かった。何と「のぞみ」登場前に2代目「のぞみ」の研究が始まっていたことになる。そうして数々の有効なデータを収集して「300X」は役割を終えた。
その甲斐あって、300系で問題になっていたネガティブな要素を次々にクリアした700系が量産され、1999年3月に営業運転を開始した。初代「のぞみ」の登場からわずか7年での投入であり、この時に時速270キロの世界が「未知」から「新しい基準」として確立できたと言える。