■古裂(こぎれ)小物から 先達の粋を使って感じる
春を迎える頃になると、不思議と身の回りのものを買い換えたくなってくることがありますね。京都の街を歩いていると、たくさんの“布もん”(=布もの)に出合えます。古い布もんが好きな方が見逃せない一軒と言えば、趣のある骨董店が軒を並べる縄手通の一角にある「ちんぎれや」です。器や道具に骨董があるように、布にも骨董があり、これを“古裂”(こぎれ)と呼びます。店名は、珍しい古裂という意味からつけられています。訪れるたびに古裂の魅力について教えてくださるのは、創業1902(明治35)年、「ちんぎれや」4代目の中村年希(としき)さんです。店内には数え切れないほどの織物、染物、更紗の古裂や袋物、工芸品が並んでいます。
例えば、豆がま口に使われている古裂は、江戸時代にヨーロッパから南蛮船で長崎に渡ってきた稀少価値が高いもので、 “わたりもん(渡りもの)”と呼ばれる更紗生地。異国情緒あふれる柄は、大名が陣羽織の裏地に使ったり、小物の内側にわたりもんを使ってちらっとのぞかせる粋なお洒落を楽しむこともあったそうです。メガネ入れに使われている “梅に雪輪”という早春に相応しい柄の古裂は、明治時代の日本の藍染で、100年の時を経て藍本来の色があらわれ、ざっくりとした風合いが手に馴染みやすく、持っていて愛おしくなってくるようです。懐紙入れとしても使える名刺入れの古裂は、春の足音が聞こえてきそうな軽やかな柄。古いもんの中にグラフィックデザインのような新鮮さを感じ、思わず手にとってしまいます。
■職方の手仕事から生まれる 京の箸と京風箸はかま
さて、布もん探しの散歩は続きます。観光客が気軽に着物を楽しみ、歩いている姿を毎日必ず見かけるようになりました。着物を着る機会があまりなくても、普段の暮らしの中で、もう少し身近に着物を楽しめたらいいなと思うことがあります。そんな時に「市原平兵衞商店」で見つけたのが、友禅染めの着物のはぎれで作られた箸袋「京風箸はかま 友禅流し」です。
平安時代、宮中の女官たちはそれぞれ自分の箸を布製の袋に入れて携えていたという古事をもとに、京友禅にて再現されたものです。創業1764(明和元)年、江戸時代から続く「市原平兵衞商店」は、京都の料理人をはじめ、多くの著名人にも愛され続けてきた箸の専門店。店内には400種類以上のお箸がずらりと並び、食事用、茶懐石、料理用等あらゆる用途に合わせ、材を選び、使いやすさを追求され最適のお箸を提供されています。厳選された竹を使い、箸先に拭き漆仕上げを施し繊細に仕上げた平安箸は、箸先が細く、つまみやすく使い良いお箸。また、囲炉裏やかまどの煙でいぶされた稀少な煤竹(すすだけ)を使った「みやこばし」は繊細さと丈夫さを兼ね備えた看板商品です。京友禅の箸はかまに入れて、粋にさりげなく使ってみたくなりますね。