国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■梅便りが届く季節 早春の京都に訪ねるとっておきの場所
朝晩の冷えは続くものの、日中は陽の光が輝きを増し、草木が少しずつ芽吹き始める時期。徐々に蕾が膨らみ、梅便りが届く季節になってきました。楚々とした姿が愛らしく、ほのかな香りが春の到来へと誘う梅の花に、京都人の心も浮き立っていきます。今回は、春本番にさきがけて、まだひっそりと静かな早春の時期に、わざわざ訪ねて行きたくなるとっておきの場所へ。八坂神社の東側に広がる円山公園に、ひっそりと隠れ家のように佇む「茶菓円山」を訪ね、身も心もほっとあたたまる口福の甘味と、眺めても使っても嬉しくなる布小物をご紹介します。
■円山公園内の大人の隠れ家 口福の苺汁粉
四季折々の姿を見せる円山公園の中、まるで隠れ家のようにひっそりと佇む日本家屋。暖簾をくぐり、扉を開ける時の緊張感が心地良く、期待に胸が高鳴ります。“懐石料理に出されるような、作りたてのお菓子をお出ししたい”という思いを込めて2014年にオープンした「茶菓円山」は、店主であるファッションスタイリスト・高堂のりこさんがセレクトされた器や、隅々まで眼の行き届いた室礼など、どこを切り取っても凛とした空間が広がっています。
朱塗りのカウンターでは、季節ごとの生和菓子や甘味の他に煮麺、お赤飯などのお食事もいただけます。中でも、早春を思わせる「苺汁粉」は一度味わうと忘れられなくなる味。黒塗りのお椀の蓋を開けると、お汁粉の中に艶々した真っ赤な大粒の苺「あまおう」が姿をあらわし、甘酸っぱい香りがふわっとたちこめます。もちもちとした弾力のある白玉も入っていて食べ応えがあり、苺の爽やかな酸味とお汁粉のちょうど良い甘さが相まって、口福を感じるひととき。お茶に精通したスタッフが丁寧に淹れてくださるお抹茶、煎茶、ほうじ茶などが、甘味を一層引き立ててくれます。戸棚に納められた急須や茶碗から、お客の好みのものを選んで淹れてもらえるのも嬉しいおもてなし。洗練された和の美意識を感じながら、静かに大人の時間を過ごしたくなる場所です。