「野生の特徴がまだ残っている」からネコが好き。「僕は『ねこの博物館』の館長なのにネコになつかれないんです」と笑う。写真のネコはおねむな様子だった(撮影/馬場岳人)
「野生の特徴がまだ残っている」からネコが好き。「僕は『ねこの博物館』の館長なのにネコになつかれないんです」と笑う。写真のネコはおねむな様子だった(撮影/馬場岳人)

 今泉は「僕は徹底した経験主義。研究室に閉じこもるよりも山にいるほうが性に合う」と笑う。

 そもそも今泉は、自分がいつから動物学者と呼ばれるようになったのかさえも自覚がない。

 11歳のときに、フランスの海洋探検家・ジャック=イブ・クストーが制作したドキュメンタリー映画「沈黙の世界」に感銘を受け、一時は海洋学者を志した。東京水産大学(現・東京海洋大学)に進学し、海洋生物の統計調査法などを学んだが、在学中も「父親の助手兼運転手兼コック」として駆り出される日々。そのうち高度な社会性を有する哺乳類の研究に強く惹かれるようになった。

 卒業間近になっても就職は考えなかった。他大学から助手の誘いもあったが、結局断った。野生に触れる機会が失われると感じたからだ。

「と言っても、父からお給料をもらえるわけじゃありませんから。20代の頃は随分アルバイトもしました。ガソリンスタンド、製氷所の氷作り、お歳暮の伝票書きと配達ね。忙しかった~(笑)」

 やがて今泉は、自身の生き方の指針となる一冊の本と出会う。アメリカの動物学者G・B・シャラーが著した『セレンゲティ・ライオン』だ。

「28のときにこれを読んで、シャラーが本を売ったお金で動物調査を続けていると知り、衝撃を受けました。『そういう道もあるんだ!』ってね」

 以来、今泉は動物調査を続けながら、フリーランス記者として自然科学系の雑誌に寄稿するようになる。そこから図鑑の執筆や監修の仕事が少しずつ増えていった。これまでに制作に携わった本は、500冊を優に超える。

 今泉の名を子どもたちに知らしめた『ざんねんないきもの事典』(初巻)の企画発案者で、現在はダイヤモンド社で今泉と共に『わけあって絶滅しました。』シリーズを手掛ける編集者の金井弓子(30)は、「あの本の監修者は今泉先生以外にあり得なかった」と語る。

■3代続いた動物学者の道、次世代のために道標を残す

「企画の骨子を作る上で色々な参考書を読んだのですが、大学の研究者は話は面白いけれど、どれも専門分野が限られていた。あらゆる動物の生態を語れるのは、今泉先生だけだったんです」

 金井は、今泉と本を作る中で、その視点や考え方にも大きな影響を受けたと言う。

「先生は動物学者だけど、動物のことばかり考えているわけじゃない。『動物を学ぶことは、最終的には人間を見る目を養うことでもあるんだよ』と教えてくれました」

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