必死で土地を探し、00年9月、三田に40平方メートルの土地を1550万円で手に入れた。奥が崖になっている狭小地ながら、この地域にしては格安だった。細かな設計図を持たず、踊るように即興でつくっていくというコンセプト。現場練りの最強コンクリートを70センチの間隔で打ち継いでいく作戦で05年、着工した。しかし、残り3メートルの3、4階部分を残して09年からほぼ止まっている。敷地が一帯の再開発エリアに入っているからと、大手不動産会社に立ち退きを求められたからだ。岡は以降、積極的に広報活動に取り組んで「応援団」を増やし、国内外から注目を集めるようになった。交渉は紆余曲折をへて、少し後ろに曳家をして保存することで決着を見つつある。

「曳家は動かしている最中に本体が崩れてしまうのが一番危ないけど、大丈夫でしょう。あれはおそらく日本で一番丈夫な建物だから」

 自らもセルフビルドの「タンポポ・ハウス」に住む建築史家で東京大学名誉教授の藤森照信(72)は評価し、さらにこう続けた。

「ドロドロなのに固まるとちゃんと石になる。コンクリートが他の建築材料と違うのは、一種の錬金術のようなもので、昔からこれに取り憑かれた発明家なんかがたくさんいたんです。岡はプロとして、現代の錬金術をやろうとしている。一番わかりやすいように、東京のど真ん中で。将来はあの辺の名所、象徴になると思います。岡が死んだ後ぐらいでしょうけど(笑)」

 建築家で舞踏家の錬金術師。岡とは、何者なのか。前出の建築史家、中谷は岡をこう分析する。

「小市民じゃない、貧乏ブルジョアジーみたいな人。誰もが皆、自分自身と社会の中で矛盾を抱えて生きている。それを解決する方法として、SNSやゲームに閉じこもって社会的な活動を諦めたり、あるいはお金を儲けることでいろんな状況からエスケープしたり。でもそれは、社会がデザインした生き方の選択肢なんですよ。岡は全く違う。土地を安く買って、普通の場所にあり得ないような建て方で、人の目に刺さるようにつくっている。自己実現でもあり、社会貢献なんだけど、どこに向かうのかわからない面白さもある」

暮らしとモノ班 for promotion
「更年期退職」が社会問題に。快適に過ごすためのフェムテックグッズ
次のページ