答えがどこにあるのかも見極めようとした。

「広告でも商品でも、何かを作ろうとするとき、市場を調査しがちです。でも、そこには答えはないんです。答えは必ず自分の中にある。だから徹底的に調べる。オリジン、原点に立ち戻るんです。例えば、享保元年に創業した中川政七商店には、300年前の看板に戻しませんか、と提案しました。それが、らしさ、を生むからです」

 生地のオリジンを知るためだけにベルギーに飛んだ案件もあった。半年間、デザインをせずにヒアリングだけしていた案件もあった。丁寧な仕事は評判が評判を呼び、仕事のスケールは大きくなっていく。NTTドコモ、キリンなど大手クライアントの仕事も飛び込んでくるようになった。オフィスをまた移転、人もスペースも増やした。かつて就職先として憧れていた大手広告代理店に、水野から発注するようにもなっていった。

 そして水野の特徴がもうひとつある。頼まれていないことまでやってしまうのだ。必要だと思えば、勝手に作ってしまう。

 実は、「くまモン」もそうだった。本県の魅力を再発見、発信するキャンペーン「くまもとサプライズ」のロゴマーク制作が、もともとの水野の仕事だった。依頼した小山薫堂(55)はいう。

「ロゴを見せてもらった後に、実はおまけがあるんです、と言われまして。サプライズというくらいなら、びっくりするものが欲しいですよね、と。それが、『くまモン』だったんです。名前もついていて。とてもいいと思いましたし、何より県にプレゼンテーションするときに喜ばれると思いました。よくあることなんですが、頼んだこと以上の仕事が戻ってくるのが、水野さんなんです」

 超多忙な中、どうして水野にはこんなことができるのか。その一端を垣間見たと語るのが、元TBS社員で、結婚後に水野の会社でプロデューサーを務めることになった妻の由紀子(45)だ。

「初めてクライアントとのミーティングに参加したとき、本当にびっくりしたんです。アイデアの出るスピードが異常に速かったから。私もテレビ局でアイデア出しの会議をたくさんやっていましたが、その何十倍もの速さで出てくる。しかも、どれもが面白いアイデアなんです。世の中にはこんな人がいるんだ、と驚きました」

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